眠れない夜の口説き文句

「今日はやりますか？」
晩酌の誘いが五歳息子から。
まだ寝たくない時にパパに甘える常套句。

いつだったか。
普段は息子が寝てから飲む赤ワインを見つかってしまった。
ばつの悪い私は彼にも牛乳とチーズを用意してあげて乾杯。
それが楽しかったらしい。

寝しなの食事に厳しいママも、この時は目をつぶった。
それで知恵も付けたのかな。
折に触れ誘ってくるようになり、今夜も。

――じゃあ、ちょっとだけやりますか。
妻に目配せして了承。
妻も誘ったが「ダイエットしてるから」
今夜は息子と二人きり、牛乳＆チーズで晩酌した。

明け方。
蒸し暑さに目を覚ます。まだ四時半。
トイレに立つと居間に灯りが――
妻がスマホを見ながらワインを飲んでいた。

――どうしたの！？
驚いて問えば「県民割のクーポン取れたよっ」と興奮の返事。
ここ数日の妻の悲願だったやつ。
「だから眠れなくなっちゃって」

見れば食卓にチーズを食べた残骸。
指摘すると「やってます」と答えた。

短夜や卓にチーズのアルミ箔

（みじかよやたくにちーずのあるみはく）

季語（三夏）： 短夜、明易し（あけやすし）、明易（あけやす）