「築地本願寺は“お寺らしくないお寺”」と僧侶たちが語る理由 築地本願寺で働く僧侶対談②
「お坊さんって日々何しているの?」「どんなことを考えているの?」
そんなみなさまの疑問にお答えするため、築地本願寺で働く中堅僧侶二人による、対談を実施。登場したのは、庶務・経理担当の上田暁成さん(34歳)と、コンタクトセンター担当の北本一樹さん(28歳)です。築地本願寺がめざす「開かれたお寺」の在り方や、それぞれの施策についてどう思っているのかを、ざっくばらんに語ってもらう全3回の本対談。第1回目に引き続き、今回は第2回目。働く僧侶が考える「築地本願寺の特徴」をお送りいたします!
築地本願寺は「お寺らしくない」お寺
北本 いま、築地本願寺では、「開かれたお寺」というコンセプトから、様々な取り組みを行っていますが、上田さんがこの数年で「変わったな」と感じていることは何ですか?
上田 まず、良い意味で、お寺らしくない部分が増えていますね。従来のお寺といえば、ご門徒さんに向けて法事をする場所とのイメージでしたが、築地本願寺はご門徒さんの枠を超えて、より幅広い方々との接点を作ろうとしている印象があります。たとえば、私はいま築地本願寺のSDGsのプロジェクトメンバーなのですが、同性同士の結婚式(パートナーシップ仏前奉告式)を執り行ったり、環境問題について配慮した施策を実施したりと、様々な方面にアプローチしています。
北本 変化のきっかけは何だったと思いますか?
上田 安永雄玄前宗務長の改革は大きいですね。「銀行マン上がりの僧侶」という珍しい経歴が話題になりましたが、それ以外にもお寺出身ではない外部のスタッフの方の登用も多くて、刺激を受ける部分も多いです。
北本 システムのプロから婚活コンシェルジュまで幅広い人々が常駐していますからね。
誰かの相談に乗っているときが、一番「勉強させてもらっている」と思う
上田 あと、画期的だなと思ったのは、本堂にいらした参拝者の方の悩みを、僧侶たちが聞いていく「僧侶相談」ですよね。新型コロナウィルス感染症の拡大があって、多くの方が悩みや不安を抱えているなかで、始まった試みですが、私自身は、僧侶として参拝者の方とお話しするとき、「勉強させていただいているなぁ」と感じる瞬間が多いですね。
北本 たしかに。相談を通じて、よりいろんな方とつながれて、自分がお役に立てている感覚はありますね。
上田 ただ、私の場合は、先方の悩みを伺いつつ、気が付けば自分の悩みを打ち明けていて、最後は先方に励まされることが多くて……。僧侶相談に来られる方は、年上の方が多いですから。私たちのように20代、30代の僧侶が担当の場合は、相談者の方にとって子ども・孫世代だったりします。
相談を聞いているうちに、なぜかこちらが相談する形になって、相談者から「アンタ、がんばりなさいよ!」と叱咤激励されることもあります。果たしてちゃんと相談に乗れているのかはわからないのですが、この双方向な関係性もいいな、と思っています。いまは、この相談ブースのリピーターの方も多いですし、僧侶相談は、今後もいろいろと新しい展開がありそうですね。
カフェや憩いの場がある「開かれたお寺」が理想だった
北本 僕は、2017年に築地本願寺で新卒職員として働き始めたのですが、ちょうどそのときから築地本願寺が「開かれたお寺」というコンセプトを打ち出していたんです。そこから合同墓ができ、本願寺倶楽部ができ、お寺内にカフェができ……といろいろと変わっていった。
上田 じゃあ、北本さんは、先入観がないままに、築地本願寺の変化を如実に見てきたわけですよね。
北本 はい。実は今の築地本願寺の在り方は、僕にとっての理想のお寺にすごく近いんですよね。
上田 え、どういうことですか?
北本 実は築地本願寺に入る前、「お寺=ご法事の場所」というイメージを変えたいという想いがあったんです。そんなときに、頭に浮かんだのが、大学の同級生の実家でした。このお寺は、境内を公園のように開放していて、毎日のように子どもが遊びまわっていて、すごく雰囲気がよいんです。前から、「こういうお寺はいいなぁ」と憧れていたので、築地本願寺の職員として採用面接試験を受けるとき、「築地本願寺にカフェなどができてほしい」と書いていたんです。
上田 すごい、偶然……!
北本 そうなんですよ! そして、いざ働き出してみたら、実際にカフェができて。いまでは、境内に遊歩道やベンチなどもあって、大勢の人の憩いの場として利用されているのを見るたびに、「これこそ、自分が思い描いていた理想のお寺のあり方だな」と思います。
上田 まさに「開かれている」感じもありますね。
オンライン法要だからこそのメリットもある
北本 築地本願寺では、YouTubeをはじめ、法話や法要のオンライン配信にも力を入れていますよね。僕らの法話や法要も配信されることがあって、緊張しますよね……。
上田 全世界に自分の姿が配信されているわけなので、プレッシャーはすごいですよね。
北本 僕も最初オンライン法要をやったときは、「モニター越しだと、門徒さんと遠い感じがするな」と思っていたんですが、でも、慣れてくると、逆にオンラインのメリットも感じるようになりました。たとえば、築地本願寺ではZoomを使ったオンライン法要を行っていますが、画面で皆さんのお顔が一覧で見られて、全員が最前席に座ってくださっている感じでお話が弾むこともあります。
あと、法話の後、ルームを残しておいて「私は退出しますが、皆様はこの後残られてお話されても結構ですよ」とご家族の方にお伝えすることもあります。すると、普段、遠方に住んでいたり、新型コロナ感染症対策などで、なかなか一か所に集まって会えないご家族やご親戚が、モニター越しでお話できる。これはとても良い機会ですよね。そう考えると、オンラインもデメリットばかりじゃないなと思います。
感染症や何らかの理由で、会えなかった家族が集まる場に
上田 たしかに。遠方にいる方々などは、以前は法要で集まることができなかったけど、オンラインだったら参加できるので、久しぶりにオンライン上でご親戚が集まることができた……というケースも多いですね。
北本 感染症の影響で、人と人とのコミュニケーションが以前よりもとりづらくなったなかでも、オンライン法要を通じてつながりを生むことができる。また、対面だと参加できなかった方が、法要に参加してくれるようになったのも、すごく良い方向だなと思っています。
上田 法事で、家族全員で準備して、時間を揃えて集合するとなると、法要が始まる前に疲れ切ってしまうこともあります。でも、オンライン法要の場合は、割と皆さん普段着で参加されていて、気楽に参加されている気がしますね。
北本 実際に、オンライン法要を利用する方も増えていますね。リピーターの方の場合は、もうこれからは毎年オンライン法要でお願いしたいという方もいれば、オンライン法要を通じて、「いつかは築地本願寺に直接行きたい」と言ってくださる方もいます。
上田 オンラインを通じて、新しくご縁を持ってくださる方がいるとは、ありがたい話ですね……!
オンライン法要とリアルな法要に、上下はない
北本 実は、初期のころは、僕自身も画面越しの法要には抵抗があったんです。でも、やっていくうちに、「オンラインでも対面でもやっていることは同じだな」と感じるようになりました。
上田 法要を行う私たちからすると、どちらが上で、どちらが下ということはないですね。
北本 数年前までは、僧侶の間でも「オンラインよりリアルの方がいい」という方が多かったと思うのですが、最近は、ほかの寺院の方からの「YouTube配信はどうすればいいのか」「オンライン法要はどうやってやるのか」というお問い合わせが増えてきましたね。今後、ひとつの法要の在り方として、定着していったらいいなと思います。数年間やってきたおかげで、オンライン法要やYouTube配信のコツも、少しずつわかってきましたし。
上田 そうですね。「オンライン法要と一言にいっても、いろいろとパターンがあり、注意するべきポイントも違うな」と感じる部分も増えてきました。たとえば、ご家族と1対1でやる法要と、定期的に行う法要だと、前者の場合は先方とコミュニケーションを取りながら進めていくのですが、後者は一方通行になりがちじゃないですか。だから、「ちゃんと受け答えをするような感じでしゃべる」ことを意識したりとか……。
北本 上田さんが法話をする上で、気を付けていることはほかにもありますか?
上田 オンライン法要では、通常の法話よりもゆっくり話をしたり、伝える情報量をそぎ落としたり、いろいろと注意しています。ただ、リアルな反応をもらえる部分はおもしろいので、オンラインならではの「伝わる法話」を今後も追及したいと思っています!
カメラワークの確認やコメントチェックも欠かせない
北本 あと、意外と大事なのがカメラワークですよね。
上田 そうそう! 以前、オンライン法要を始めたばかりのころは、お経を読んで、一礼して座った後、実はカメラにはずっと私のアゴしか映ってなかった……なんてこともありました。これはせつなかったですね(笑)。でも、こういう失敗を活かして、次第にオンラインに慣れてきているように思います。
北本 芸能人じゃないのに、カメラの中での立ち居振る舞いはだいぶうまくなった気がします(笑)。いまだに緊張はしますが、最近はYouTubeのコメント欄で、「今日の法話ありがとうございます」とかリアルタイムにいろいろと感想を書いてくださる方が増えて。すごく励みになりますね。
3回目の対談はこちらから!