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歴史を学ぶことは、今を説明すること。
「仏教と関わりがある映画」や「深読みすれば仏教的な映画」などを〝仏教シネマ〟と称して取り上げていくコラムです。気軽にお読みください。
第106回「ホールドオーバーズ おいてけぼりのホリディ」
アレクサンダー・ペイン監督 2023年アメリカ作品
年末年始、9連休をお取りになれた方もけっこういらっしゃるとのこと。学校や仕事は休みでも行く先がなかったら、ご自宅でこの作品をご覧になるのも一案。
1970年のアメリカ、寄宿制のバートン校が舞台です。冬季休暇に入り、生徒たちはほとんどが家に帰って家族と年末年始を過ごすのが通例です。しかし事情により帰れない生徒もあり、彼らの寄宿舎での居残りを学校は許していました。その冬に居残りとなった生徒はアンガス1人。彼の監督役の歴史教師・ハナムと、寄宿舎の料理長・メアリーの3人で休暇期間を過ごすこととなります。
反抗心が強く、親とも教師とも衝突していたアンガス。偏屈で、生徒からも同僚からも軽んじられているハナム。自慢の息子をベトナム戦争で亡くしたばかりのメアリー。居残り3人が生活する中でそれぞれの不遇と孤独が知らされます。ハナムとメアリーはそれぞれ、自分の境遇と折り合いを付けているようです。しかし若いアンガスはそうはいきません。そこからの行動にハナムも付き合わされて……。
それぞれが見えない傷を負っていることに気づいたアンガスは、ハナムの言葉に耳を開いていきます。「今の時代や自分を理解したいなら、過去から始めるべきだよ。歴史は過去を学ぶだけでなく、今を説明することなんだ」。
仏教は「縁」を重要視します。なされたことに思いを馳せることが、すなわち今を知ることだから。ハナム先生の教える通り。
そして春。卒業するアンガスにハナムははなむけの言葉を贈ります。「がんばるんだぞ。君は、大丈夫だ」。「大丈夫」。この言葉を私は、「南无阿弥陀仏」の正確な現代語訳だといただいています。
松本 智量(まつもと ちりょう)
1960年、東京生まれ。龍谷大学文学部卒業。浄土真宗本願寺派延立寺住職、本願寺派布教使。東京仏教学院講師。自死・自殺に向き合う僧侶の会事務局長。認定NPO法人アーユス仏教国際協力ネットワーク理事長。