あなたは自らの“正義”とどう向き合うか? 僧侶が読みとく映画『正義の行方』
「仏教と関わりがある映画」や「深読みすれば仏教的な映画」などを〝仏教シネマ〟と称して取り上げていくコラムです。気軽にお読みください。
第98回「正義の行方」
木寺一孝監督
2024年日本作品
骨太の重いドキュメンタリーです。
1992年に福岡県飯塚市で女児2人が殺害された「飯塚事件」。証拠が乏しい中、DNA型鑑定が決め手となって事件発生から2年後に久間三千年が逮捕・起訴され、2006年に死刑が確定します。久間は一貫して無罪を主張しますが、2年後の2008年10月に刑が執行されます。
そしてその2 か月後、別の殺人事件で注目すべき動きがありました。東京高裁で、犯人逮捕の証拠だったDNA型の再鑑定が決定したのです。それにより、以前の鑑定法は信用性に欠けるとされ、最新の鑑定法により、同事件の被告は無罪となりました。飯塚事件で有罪の決め手となったのは、その、信用性のない古い鑑定法だったのです。
「正義の行方」で主役となるのは、西日本新聞の人びとです。西日本新聞は、飯塚事件の発生当初から他紙に先駆けて事件を追い、警察発表をそのまま報じてきました。しかし有罪理由だったDNA型鑑定の信用性が否定されたことから、自分たちが為してきたことへの疑いが生まれます。そして死刑執行から10年後の2018年、飯塚事件を再検証する連載を始めます。
そこで問題とされたのは警察捜査や検察の主張とともに、自社の報道内容と姿勢でした。死刑制度を問うことにも、身内を裁くことにもなる記事は社内に波紋を広げ、役員会で「さっさと止めろ」と声が上がります。しかし検証記事を指揮した当時の編集局長・傍示文昭氏は「止められません」と連載を続けました。
実は傍示氏は、福岡の浄土真宗本願寺派寺院のご出身です。煩悶し迷いながら、自らを振り返り、報道と判決を問う傍示氏の姿に、私は親鸞聖人の次の言葉を思い出しました。
「慙(ざん)は人に羞ず、愧(き)は天に羞ず。これを慙愧(ざんき)と名づく。無慙愧(むざんき)は名づけて人とせず。『教行信証』」
松本智量(まつもとちりょう)
1960年、東京生まれ。龍谷大学文学部卒業。浄土真宗本願寺派延立寺住職、本願寺派布教使。自死・自殺に向き合う僧侶の会事務局長。認定NPO法人アーユス仏教国際協力ネットワーク理事長。