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『いっしょに翻訳してみない?』刊行(まえがき全文掲載)

『いっしょに翻訳してみない?』(河出書房新社刊、北烏山編集室編集)が刊行されました。2年前の『はじめて読む! 海外文学ブックガイド』につづいて〈14歳の世渡り術〉シリーズの1作です。
 帯にもあるとおり、これは2023年の夏に5人の中学2年生とおこなった翻訳の特別授業を記録した本で、扱ったのはオー・ヘンリーの「二十年後」という短編です。英語の読み方、日本語の表現、小説の深い読解、辞書の引き方など、さまざまな角度から中学2年生に問いかけをつづけ、こちらの予想をはるかに上まわる成果が得られました。
 18分程度でこの本の内容を紹介したので、お時間のあるかたはご覧ください。

 また、版元の了解を得て、この本のまえがきの全文をここに掲載します。

 みなさんは海外の小説を読んだ経験があるでしょうか? たいがいの人は日本語で何作か読んだことがあるでしょう。それは作家が書いたそのままではなく、翻訳された作品です。
 わたしは二十五年ぐらい前から、おもに英語の小説を翻訳する仕事をしてきました。翻訳というと、外国語が得意な人がするものだという印象があるかもしれません。もちろん、翻訳をするためには、英語に強いことが大切ですが、実はそれと同じくらい、いや、ひょっとしたらそれ以上に、日本語にも強くなくてはなりません。さらには、小説を深く読みとる力や、辞書などを効率よく調べる力など、さまざまな能力や経験が必要です。
 そんなふうに書くと、翻訳というのはめんどうでむずかしい仕事なのかと思われるでしょうが、実はとてもおもしろく楽しい仕事です。翻訳という作業がどれほどおもしろいかを、そして、その経験がほかのいろいろな場面でも生かせることを中学生のみなさんに知ってもらいたくて、わたしはこの本を書きました。
『いっしょに翻訳してみない?』は、二〇二三年の夏に中学二年生を対象におこなった六回の特別授業(オリエンテーション含む)の内容をまとめた本です。オー・ヘンリーの『二十年後』という作品をいっしょに読みながら、生徒のみなさんがさまざまな角度から翻訳について学んでいった過程を記録しました。実際にこの本を読んでもらえばわかりますが、参加した生徒の人たちにとって、こちらの予想をはるかにしのぐ大きな成果がありました。そのくわしい記録を読むことで、読者のみなさんも同じような貴重な体験ができると信じています。
 もちろん、これは中学二年の夏休みにおこなった特別授業なので、その時期までに学校で教わる英語の文法項目以外はほとんど扱わずに進め、扱うときには中学生でも無理なく理解できるように、じゅうぶんな説明をしました。とはいえ、手とり足とりで何もかも教えるのではなく、生徒の人たちが自分自身で調べたり考えたりする過程を大切にして授業を進めました。そのほうがまちがいなくおもしろいし、将来きっと役に立つからです。
 まずは巻末にある『二十年後』の日本語訳に目を通し、どんな作品なのかを知ったあとで、オリエンテーションから順に読んでみてください。自分のペースでゆっくり進んでいいですよ。
 では、ちょっとむずかしい部分もあるけれど、それを吹き飛ばしてしまうほど、とびきり楽しい翻訳の世界へようこそ!

『いっしょに翻訳してみない?』p.8~p.10 「はじめに」

 この本の内容については、河出書房新社によるこの記事でもかなりわかります。

 本に載っている「二十年後」の原文・訳文と、授業で扱った設問、そして各回の「翻訳にチャレンジ!」は、河出書房新社の公式サイトの紹介ページから、どなたでも無料でダウンロードできます(本のなかにもQRコードが載っています)。プリントアウトして併読すると、より楽しめると思います。

 いちばん読んでもらいたいのは、もちろん中学2年生ですが、中学3年生や高校生などにとっても、手応えはじゅうぶんです。また、この本のなかでわたしは文芸翻訳にとって重要なことをほぼすべて話しているので、翻訳を勉強中の人や言語・文化に興味のある人にとっても読み応えのある本だとお約束します。ぜひご一読ください。


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