「もう分かっている」そう思った瞬間に、「成長は止まっている」のかもしれない
(写真は伊豆の御室山から見た伊豆半島の山々:2020年8月撮影)
「うん、分かってる」
「はい、はい、それはもう分かっています。」
「そうなんですよ。分かる、分かる。」
そんな言葉をクライアントの経営者の方から聞くことがあります。
取り組むべき課題や実行する施策のことであったり、数字の意味することであったり、戦略についてのことであったり、様々な会話の中での事です。
そんな時には「そうか、もう理解されているのだな」とそれ以上のコメントを控えます。
分かっていらっしゃるのだから、そのことについて取り組まれる、取り組まれないを含めて、判断、決断をなさるのだろうなと思うわけです。
ところが時々ですが、どうもその「分かっている」ことについて、いつまでたっても、何の判断も決断も実行もないような時があります。
「分かっている」だけでは、成果をあげられないことについては以前書きました。貢献する志で優先順位を明確にして上で、集中して実践することです。
成果をあげるためには、「理解している」だけでは足りないのですが、成果をあげる以前に、「分かっている」ことが自らの成長を妨げている可能性があるんです。
そのことを考えてみましょう。
何が成長を妨げているのか?
何かを成し遂げようと思ったら、まず最初に「何をやめるか」から考える必要があることは、よく言われていると思います。
それと同じように「成長したい」と願うなら、まず最初に「何が成長を妨げているのか」から考える必要があります。
エントロピーの法則(熱力学第2法則)が私たちのユニバースには働いています。
この法則は「熱は高温部から低温部に不可逆的に流れる。」というものです。
暖かい味噌汁は冷たくなるのです。同じように秩序は無秩序に向かう訳です。
しかし、命はこれに逆らって成長を続けます。もちろん身長ならば、ある時点でピークを迎えます。様々な身体的な機能は、エントロピーの法則に従って衰えていきます。
ところが私たちの脳は学びを通して成長し続けるのです。鍛え続ければ120歳まで成長し続けるといわれています。
「脳の学校」代表で脳内科医の加藤俊徳医師によれば、人間の脳だけが持つ「超脳野」は、年を重ねる事に成熟するらしいのです。
実行力や判断力を司る「超前頭野」は50歳を過ぎてから活発化して成長するのです。
せっかく成長期が来た頃に、もう年だと脳をあきらめて使わなくなってしまうから、脳の成長を妨げてしまっているというのです。
「分かっている」と思う時に起こること
「もう理解している」と思うときにどんなことが起こっているのでしょうか?
「ダニング=クルーガー効果」という認知に関する現象が、この事を興味深い視点から説明しています。
「ある分野のスキルを持たない人間は、その分野の複雑度、リスク、需要を過小評価し、その分野を軽視する」という認知バイアスの事だそうです。
株式会社Mt.SQUARE、CSO山口成一さんがnoteで分かりやすく紹介してくださっています。
この効果が働いて「分かった」と最初に思った時には、全てを理解したと自信をもってしまうことがあるのです。
全てを理解したと思っていると、それ以上そのことについて学ぼうとは思わなくなってしまいますよね。
米国の大学院に行ってリーダー論を学んだ時に、リーダーやリーダーシップについて全て「分かった」ような気持ちになってしまいました。
お恥ずかしい話ですが、これ以上リーダーシップについて学ばなくて良いなと考えていたように思います。
ところが、卒業して実際に自分自身がリーダー研修などを始めると、どれだけリーダーやリーダーシップについて理解していないかが分かるようになりました。
好奇心と挑戦
「成長」を続けるために必要なのは、好奇心を持って「成長の可能性」を見出し、そのことに対して「前向き」になって「挑戦」していくことですね。
これを読んでいるあなたの年齢は分かりませんが、30歳以上の方は先の「超脳野」の活性期が30歳から始まり100歳を超えても成長し続けると聞いて「成長の可能性」を見出したのではないでしょうか?
私は何度読んでも「前向き」になります。
この「前向き」な気持ちが、私を「挑戦」へと押し出してくれます。
「挑戦」をすると必ず難しいことや苦しいことが起こってきます。
これが「成長」を生み出すわけですね。
ですから、「もう、分かった」と思った瞬間に「成長」が止まってしまったのかもしれません。
マネジメントの父と言われたピーター・ドラッカーは、「マネジメント」を還暦で書き下ろしました。
多くの名言が残されていますが、その全ては還暦以降の著書から引用されたものです。
「もう、分かった」と言わないで、「好奇心」を持って「挑戦」し続けましょう!