見出し画像

海の地政学・2:Admiral James Stavridis "Sea Power"

2022年の3冊目の洋書、Admiral James Stavridis "Sea Power" を予定通り読了した。

第1章が太平洋、第2章が大西洋、第3章がインド洋、第4章が地中海、第5章が南シナ海、第6章がカリブ海、第7章が北極海について、それぞれ歴史を踏まえて現状を分析したうえで、アメリカとしてどう対処するべきか提案がある。第8章が、海を舞台とした利害の対立について、とくに3点、海賊、海洋資源問題そして地球温暖化についてそれぞれ論じられる。最後の第9章が今後のアメリカの海軍の戦略について扱われる。

本書はアメリカの視点で記述されているわけだが、現在の世界の覇権国であり Sea Power であるアメリカがどのように考えて行動しているのか理解することは、現代の世界と将来動向を見据え、そのなかでの日本の立ち位置を考えるときに非常に重要であることは言うまでもない。多くの人に読まれる必要がある本だと思った。

あらためて地政学は重要だと認識した。なぜ日本では学校で教えないのだろうか。歴史と地理と政治・経済を結びつける学ぶべき観点だと思う。

全編が目から鱗で新しい知識ばかりであったし最後の2章はいろいろ考えさせられた。各論では第7章の北極海について、そして、第3章のインド洋、第5章の南シナ海が特に興味深かった。日本の安全保障を考えたときには、太平洋がもちろん重要であるが、ヨーロッパと特に中東との関係を考えればわかることであるがインド洋も大事である。そして、ことのほか重要なのは南シナ海だ。

太平洋とインド洋をつなぐ海域であって、世界の交易のかなりの部分がここを通過する。日本や中国にとって中東の石油をつなぐ重要な海であるし、天然資源にも恵まれている海でもある。

アメリカを中心に世界地図を見るとどんな感じか Google mapからキャプチャしたので貼っておこう。

アメリカが海洋国家だということは一目瞭然だが、日本、フィリピン、オーストラリア、イギリスがいかに重要か、南シナ海と地中海-スエズ運河がいかに重要か、この地図を見るだけでもわかるだろう。

アメリカが現代の覇権を握っていることは、海の重要性を理解し、圧倒的な軍事力で海を押さえることで成立していることがよくわかる。航続距離の長く給油による寄港が必要のない原子力空母と原子力潜水艦を持っていれば世界中のどこにでも軍を派遣できるのだ。

そして、UNCLOS(国連海洋法条約)に米国が加入していないということを初めて知った。他国をUNCLOSで縛り、UNCLOSに違反している、と他国を非難し武力をちらつかせ、しかし自国はやりたい放題にできるようにしておく。。。概念と仕組みを押さえることによって世界を押さえることができる。今さらながら欧米人のコンセプト力の強さに驚くばかりだ。

日本外務省:「海洋の国際法秩序と国連海洋法条約
国連:UNCLOS加盟状況

地球の反対側から見てみよう。

対抗する勢力としての、Land Powerがくっきりと見える。ロシアと欧州と中国が共同戦線を張って海に自由に出られるようになったら大変だ。アメリカから見たときに、それぞれの関係を分断するように働きかけることがいかに大事かが見た目わかると思う。

だから、アジアーロシア、アジアーヨーロッパ、ロシアーヨーロッパ、それぞれの分断の境界にいる国はたまらない(*1)。特に地続きの境界にいる国、そして海への出口がある国は歴史的に紛争が絶えず、今でもそうだ。

こうしてみると、日本がこれまで歴史を通じて世界の他の紛争地域と比べて比較的穏やかだったのかはなぜか、この2枚の地図を見てぼんやり考えているだけでもなんとなくわかる気がする。

天然資源もなく世界の文化の源泉でもなく、いつの時代でもパワーの中心地から遠く、海を隔てた辺境だからだ。



しつこく書いているような気もするが、私は歴史・政治・経済・安全保障の分野はあまりに疎く、昨今の情勢を鑑みるとさすがに常識程度は身につけなければ、と一昨年の末より入門した、というより門を少しあけて覗いてみたくらいの感じだが、今年から来年にかけて全体の風景がだいたい見えるくらいまではいきたいものだ。


明日死ぬかのように生きよ、永遠に生きるかのように学べ。


■注記

(*1) ロシア、あるいは中国からインド洋への経路を考えたときに、ロシア・中国とインド・パキスタンの組み合わせも見えるであろう。ロシアーインド・パキスタン、中国-インド・パキスタンの境界にいる国も大変であり、なぜそこにアメリカが絡むのか理由が同様に見てとれる。


■ 関連 note 記事

本記事のカバーフォトで、ジル・ドゥルーズの「フーコー」が写っているが、Sea Power と Land Powerと世界の覇権・権力の源はどこだろうか、と考えるにつけ参考にして、構造主義と安全保障、についての大論文を書くつもりであった意気込みの表現である。・・・・もちろん、実際には今の私には無理なので割愛だ。以前に権力と影響力にちょっと書いたことがある。



この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?