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【読書】夏目漱石『文鳥・夢十夜』
(この読書メモは、2020年4月に書いたものです)
中学二年生の夏休みに『こころ』の最初の3頁と巻末の解説だけ読んで読書感想文を書きました。当時担任でもあった国語の先生に「これほどの大作を選びながら読みが浅い」と酷評を受けたのを覚えています。
この『こころ』は片付かない夏休みの宿題として、ずっと心に引っかかっていたため、大人になってから改めてちゃんと読んだのですが、深く読もう、著者の意図を汲みとろうと構えすぎて、読後には結局、著者のメッセージを受けとれていないのではないかという心もとなさだけが残りました。
『文鳥・夢十夜』は、雪辱戦のつもりでもうずいぶん昔(帯には2008年とあります)に漱石作品の中でもできるだけ入りやすいものをと思って選んだのですが、途中まで読んでテーマやメッセージがまったく見当たらず、これまた放り出してしまっていた次第。この時点で読書感想文を書くとすれば、書き出しはこうです。
── オイオイ漱石、いったいなに考えてんだ……
これを改めて読みなおそうと思ったのは、NHKの番組「100分de名著」の夏目漱石スペシャル(2019年3月放送)第2回で『夢十夜』が取り上げられたのがきっかけです。
指南役の阿部公彦さんは東京大学の教授で専門は英文学らしいのですが、この先生の解説がとてもおもしろかった。長塚圭史さんと藤井美菜さんの深夜のラジオドラマみたいな朗読も、本の挿し絵を動かしたようなちょっと不気味なアニメーションもおもしろかった。
阿部先生の解説によれば、『夢十夜』は意識的に既成の文学の枠から外れて冒険をしようとしたもののようです。なんだかわからない足元の不確かさはそれ自体が作品の魅力であって、あまり説明をつけるとおもしろみが半減するといった主旨のことをおっしゃっていました。そう割り切って読むと、なるほど確かにこの作品は冒険的でおもしろい。
もしかすると、文豪なんだからすべての作品に明確なテーマやメッセージがあるはずと決めつけて、自分は視野が狭くなってしまっていたかもしれません。肩ひじをはらず、『夢十夜』のちょっと無茶な世界観や日常を観察する漱石のシニカルな視線に身をゆだねることで、影絵やあぶり出しのようにぼんやりとした何かがあるいは浮き出してくるかも知れない。文学というのはそんな風に読めばいいのかも知れないと、今はそんな風に考えています。
この本には、ほかにも短編小説ともエッセイともつかない文章がいくつも収められていて、こういった自由なスタイルで書かれた短い文章を「小品」と呼ぶようです。
(2020/4/5 記、2025/2/7 改稿)
夏目漱石『文鳥・夢十夜』新潮社(2002/9/1)
ISBN-10 4101010188
ISBN-13 978-4101010182