【読書】マイケル・サンデル 『公共哲学 政治における道徳を考える』
第一部では、アメリカのリベラリズムの歴史を振り返りますが、ケネディ大統領を知らない世代の自分には、いろいろ発見があって楽しく読みました。
貧困の解決策は政府が支払う保証所得ではなく、「適正な賃金でのきちんとした雇用であり、コミュニティ、家族、国、また何より重要なのは自分自身に対し、こう言えるようにする雇用である。『私はこの国の建設に貢献している。私は偉大な公の事業に加わっている』と」。
── P103 第7章 ロバート・F・ケネディの約束
ただ、このケネディ氏は元大統領ではなく、その弟さんだったと途中で気がつくなど、自分の無学にちょっと恥入ったりもしましたが。
以前読んだ『これからの「正義」の話をしよう』よりも読みごたえのある内容だったと思います。「ハーバード白熱教室」を見て白熱した人には、こちらもおすすめしたい。テレビでは見えてこないサンデル教授の持論が、第三部、特に第28章で分かりやすく説明されています。
道徳や宗教を一顧だにしない政治は、やがて自らに幻滅してしまう。
── P363 第28章 政治的リベラリズム
世代のせいか教育のせいか、ぼくは信仰を持ちません。ですがこの章を読んで、信仰は良否以前に人間性の一部なのかも知れないと思うようになりました。であれば、信仰の否定は人間性の少なくとも一部を否定することなのかもしれない。
先ごろ読んだ坂口安吾『天皇小論』(新潮社『堕落論』収録)の「人間から神を取り去ることはできない。そのような人間の立場をも否定しては政治は死ぬ」という言葉が思い出されます。
第29章「ロールズを偲んで」は、サンデル教授が、偉大な先輩かつ批判対象のジョン・ロールズへの想いを短かく綴ったもの。ほかの小論と趣旨が異なりますが、感情を抑えた文体に氏への尊敬がぎゅっと詰まっていて、なんだか感動してしまいました。小論なのに。
たぶん、今年読んだ本の中でベスト1。二位は『キャッチャー・イン・ザ・ライ』(サリンジャー)、三位は、『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』(米原万里)。
(2011/12/22 記、2023/12/24 改稿)
マイケル・サンデル『公共哲学 政治における道徳を考える』筑摩書房(2011/6/10)
ISBN-10 : 4480093877
ISBN-13 : 978-4480093875