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【読書】眞島めいり『みつきの雪』
(この読書メモは、2020年6月に書いたものです)
雨を言いわけにトレーニングをサボり、一日中寝っ転がって読んでしまった……
この本は、2019年ちゅうでん児童文学賞大賞受賞作品です。
先日読んだ小手毬るいさんの『ある晴れた夏の朝』といっしょにSNSの広告に出てきて、ついポチってしまいました。おそるべし、FacebookとAmazonの連携プレー。
それはともかく、卒直にいい作品でした。
(この先は引用が多いので、本作を読もうと思われている方は注意してください)
主人公は高校卒業直前の女の子とその幼なじみの男の子。男の子は小学五年生から山村留学生として舞台となる山村に暮らすようになり、まもなく他県の大学に進学しようとしています。
物語は何度も時間軸をさかのぼって、彼らの過ごした月日を回想します。ちょっと訳ありの男の子は、結局七年以上をこの山村で過ごすわけですが、小さな地域社会の中のたった二人の同級生としていっしょに育ちながら、微妙な距離でお互いを思いやる姿がとても暖かくて爽やかです。でも卒業と同時に、別々の道を行くことになる。
── 山村留学生たちは、たいてい二年で、もといた場所へ帰っていく。彼らを気持ちよく送り出してやるのが村に住む子どもの役目だった。(中略)ずっといっしょにいられるなんて思っちゃいけない。(中略)小四の時点でよくよく肝に銘じたはずだった。だけどわたしは、なにも学習していなかった。
── ぼんやりかがやくガラスの向こうで、音もなしに、三月の雪が舞っている。(中略)事実か嘘かわからないくらいのおぼつかない印象だけを残して、あっという間に視界から消えてしまう。ここまではっきり憶えているのに、過ぎてしまえばふたしかな、七年二か月って月日の長さとおんなじに。
女の子の方はその土地で就職する道を選びますが、彼女目線で語られる物語の文章表現には、土地への愛着が随所ににじみ出ていて、自分としてはこれがこの作品の魅力の一つであるように感じました。
── 飯田線に似たスピードで季節は変わっていく。ときどきゆっくり、でも着実に先へ。
── 澄んだ大気に白と青の山並みが浮かびあがる時期は過ぎようとしていて、これからだんだん暖かくなると、今度は強い風に埃や花粉が舞って霞んでしまう日が増えてくる。でもそのぼやっとして写真映えしない風景もまた、わたしの体内カレンダーにしっかりと刻まれた、替えのきかないもののように思う。
本作に細かい地名は登場しませんが、信州と飯田線というヒントから、見えているのは木曽山脈(中央アルプス)と想像したい。
伊那谷と木曽の山々に育まれた女の子と男の子のちょっとだけ切ない旅立ちの一幕。おっさんが読んでも心が洗われますが、本来この本は娘たちに薦めようと思って買ったもの。
しかし、読むかなあ。うちの娘たち、最近、YouTubeばっかり見てるからなあ……
(2020/6/14 記、2025/2/21 改稿)
眞島めいり『みつきの雪』講談社(2020/2/3)
ISBN-10 4065181291
ISBN-13 978-4065181294