【読書】森見登美彦『太陽の塔』
森見登美彦さんのデビュー作にして、2003年日本ファンタジーノベル大賞受賞作。
「彼女はあろうことか、この私を袖にしたのである」……という序章から始まる失恋男の物語です。
笑いの中に、世の中に隠然としてある軽薄な価値観、「イケてる/イケてないに単純化された評価軸」や「恋愛スキル偏重の人物評価」みたいなものへ一矢報いようとする反骨を感じたりもしました。
主人公やその「イケてない」友人たちのイケてないのに強気な姿勢は、時代錯誤で、滑稽で、笑えますが、共感もしてしまいます。なんとなれば、ちょっと方向性は違っても、ぼくもイケてない青春時代を通り、人並みに失恋も経験しているから。
離れてゆく異性に未練タラタラというのは、みっともない。でも、そうして傷つく経験というのは、とても多くの大事なことに気づかせてくれます。たとえば、どん底のときにはわずかな友情の温かさが、死活的に重要だったりもすること。
終盤で友人、飾磨(しかま)が送ってよこす無骨で不器用な言葉は、もはや彼女を諦めるしかない主人公に対し、優しく再起を促してくれます。
「幸福が有限の資源だとすれば、君の不幸は余剰を一つ産みだした。その分は勿論、俺が頂く」
── P228
諦めるとは、未練という足かせから解放されることでもあります。この本の読後感には、例えるならボロボロの徹夜明けの朝日のような不思議な清々しさがありました。
(2012/7/9 記、2023/12/30 改稿)
森見登美彦『太陽の塔』新潮文庫(2006/6/1)
ISBN-10 4101290512
ISBN-13 978-4101290515