【読書】ブルース・チャトウィン『ウィダの総督』
19世紀の西アフリカで権勢を誇った奴隷商人とその末裔の物語。『パタゴニア』に続くブルース・チャトウィンの2作目の長編です。主人公の奴隷商人シルヴァには、デ・ソウザという実在のモデルがいるようです。
奴隷商人というと世界史の授業では悪の権化ですが、ブルース・チャトウィンは、こういったことを善悪二元論で単純化しません。良いも悪いもともかく書いて、余計な評価は加えない。両面合わせて人間であり、だから面白いのだと、そんな姿勢が感じられます。
ここで描かれる主人公は、極彩色の欲望とそれなりの倫理観がないまぜになった「人間」そのものです。その倫理観は現代の基準からはかけ離れていますが、それでも自身の物語を貫こうとしていたようにも見えました。そして終幕に近づくにつれて重く大きくふくらんでゆく彼と一族の悲哀が、この物語を強烈に印象づけます。
ブルース・チャトウィンは冒頭で、情報不足を想像力で補ったと述べ、これはフィクションだと宣言していました。だから本作を史実として読むのは間違いなのでしょう。でも彼の想像には説得力があります。
(2013/1/19 記、2024/1/13 改稿)
※ めるくまーるの『ヴィダの総督』は、すでに絶版ですが、その後、みすず書房から新訳版として『ウイダーの副王』のタイトルで出版されました。ただ、現在はそれも品薄のようです。(2024/1/13)
ブルース・チャトウィン『ウィダの総督』
めるくまーる(1989/6/1)
ISBN-10 4839700478
ISBN-13 978-4839700478