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【読書】村田奈々子『物語 近現代ギリシャの歴史 - 独立戦争からユーロ危機まで』

(この読書メモは、2020年6月に書いたものです)

ギリシャの歴史というと古代に目が向きがちですが、近代国家としてのギリシャの成り立ちって、よく分かってなかったりしませんか?

なにしろ学校で習う世界史だと、ギリシャは序盤で主役級の扱いを受けたあと、さまざまな帝国の版図の一部となって、もうギリシャという名前では呼ばれません。そして気がつくと現代に入ってから「EUのお荷物」的な役回りで世界史の舞台に再登場したりする。

バルカン半島周辺の人々がオスマン帝国から独立して国を建てるのは19世紀に入ってからです。この本はそれ以降のギリシャの近現代史を扱っています。

おもしろいのは、独立以前のこの人々には自分たちが古代ギリシャの文化の継承者であるという意識があまりなかったらしいこと。

── 民族が混在するバルカン半島に位置するギリシャの地で、ギリシャ人が、古代から今日にいたるまで、その血統を100%純粋なまま保ちつづけていると考えることが、いかに非現実的なことかは容易に想像がつくだろう。
(中略)
そもそも、ビザンツ帝国において、ギリシャ人は、みずからを「ヘレネス」(ギリシャ人)と呼ぶことはなかった。彼らは「ロミイ」(ローマ人)を意識し、そう自称していた。「ロミイ」は、広義には、ローマ帝国の臣民であり、かつキリスト教徒であることを意味し、狭義には、さらにギリシャ語話者であるという要件が加えられた。
(中略)
キリスト教という一神教を信じるロミイにしてみれば、多神教の神々を祀っていた異教の古代ギリシャ世界が、自分たちの歴史と直接つながっていると考えることはできなかった。
(序章 古代ギリシャの影 より)

そもそもなにを以って自分たちを「ギリシャ人」と規定するのか、なにを以ってこの土地を自分たちの国土と考えるのか。どうも、周囲の国々に主張する前に自問自答が必要だったようです。

この辺りは、良かれ悪しかれ、限られた国土に昔から言語や人種がおおむね(あくまでおおむね)同じ人たちが暮らしてきた環境に育った人間には、理解しづらい感覚なのかもしれません。ここは日本で、自分は日本人。そんな神話がぼくらには自明のものに感じられる(少々乱暴でしょうか)。

「物語」はその後、
クレタ島やマケドニアなどへの領土拡張
第一次世界大戦とその後のトルコとの争い
第二次世界大戦でのレジスタンス活動、それに続く内乱
冷戦下での軍事政権。民主化、経済危機、EC加盟
……と続きます。よくまとまっていて、とても読みやすかった。

第二次世界大戦期のレジスタンスのくだりでは、以前読んだクリストファー・マクドゥーガルの『ナチュラル・ボーン・ヒーローズ』で描かれていた、タフで反骨精神旺盛なギリシャ人・クレタ人像が、架空のものではなかったのだと納得しました。

でもこの本は『ナチュラル・ボーン・ヒーローズ』がきっかけで読んだんじゃありません。

じゃあなんでまた突然、ギリシャの近代史なんか読んだのかというと、それには一応の理由があるわけですが、それについてはまた後日。

(2020/6/11 記、2025/2/14 改稿)


村田奈々子『物語 近現代ギリシャの歴史 - 独立戦争からユーロ危機まで』中央公論新社(2012/2/24)
ISBN-10: 4121021525
ISBN-13: 978-4121021526


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