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【読書】森見登美彦『四畳半神話大系』

フジテレビの深夜枠アニメ「ノイタミナ」では、ときどき、とんでもない当たりを引くことがあると思っているのですが、とくにびっくりしたのが、この『四畳半神話大系』でした。今回原作を読んで、アニメ版がかなり忠実に原作の持つ空気感を再現していたことを知りました。

独特な言葉使いと、冗長な文章を自然に読ませる軽快なリズム。日常を幻想の中に溶けこませる妙技。それとなにより、際立つキャラクターの個性。

誰が好きかと言えば、ぼくは小津くんが好きです。しかし、原作を引用しようと思ったら、樋口師匠を外すことはできません。

「なにもしない」をするプーさんの哲学にも通ずるような魅力的なこのキャラクターは、「無意味、非効率の肯定」という、この作品が持つ風変わりな主張を代表しているように思います。

長生きした動物がある神秘的気配を身につけるように、長く大学で過ごした学生もまた神秘的気配を身につける。(中略)先輩は何らかの行動に出るでもなく、ただひたすら堂々と暮らすことだけに専念していた。──P100

「まだ人生が始まってもいないくせに迷ってるのか」──P149

「貴君ならば大丈夫だ。これまで二年間よく頑張ってきたじゃないか。この先二年と言わず、三年でも四年でも、きっと立派に棒に振ることができるだろう。私が保証する」──P149

「腰の据わっていない秀才よりも、腰の座っている阿呆のほうが、結局は人生を有意義に過ごすものだよ」──P151

なんというか、不毛だった自分の学生時代を、樋口師匠の言葉は救ってくれる気がします。なんの成果も上がらなかったけど、そういえば小津くんみたいにいっしょに馬鹿なことをやれる友だちはいました。

最終話で、十分に伏線の張られたさまざまな小道具を使って、文字だけで四畳半世界からの脱出を描き出していることには、著者、森見登美彦さんの表現力のすごさを感じずにいられません。この点は圧巻でした。

(2012/7/4 記、2023/12/28 改稿)

<後日譚>
4才だった下の娘が、10年後に同作品のアニメ版再放送を見てハマるということを、当時はまったく予想していませんでした。”蛙の子は蛙”ということでしょうか。彼女はいま、中村佑介さんのイラストのTシャツがお気に入りのようです。(2023/12/28 記)


森見 登美彦『四畳半神話大系』角川書店(2008/3/25)
ISBN-10 404387801X
ISBN-13 978-4043878017

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