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【散文詩】蝉について

 夏の日の鋭利な日差しが空から降ってくる。そのなかで蝉はしきりに鳴く。昼下がりのむわっとする暑さのなかでも蝉は尚更さかんに歌う。

 「蝉たちにとって、鳴くことは我々のする祈りに似ている」━━数年前に友が語ったその詩句フレーズのような言葉を、まるで昨日のことのように思い出す。

 私は蝉が鳴くように、教会へ行って祈るのだった。「君もなかなか敬虔じゃないか」なんていう風に、彼に言って貰いたい気持ちもあったかもしれない。だが祈ることの大半は、祈らずにはいられない状況にあるがゆえにされることであった。

 クーラーの効いた礼拝堂のなかは不思議な位静かであった。窓の向こう側からは「祈るように」蝉が鳴く声が聞こえていた。日が沈む迄祈りつづける彼等は、祈りつづけた挙句には死んでしまうのだ。

 もし蝉たちが鳴きながらに祈っているのだとしたら、私たち人間は、そんな蝉よりも敬虔に祈れるかしら。私は蝉のように敬虔にはなれないかもしれないと思った。それと同時に、彼等の清らかな心に対して、あたたかな羨望を抱きさえした。


(2024.8.17)

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