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日輪

Amazon.co.jp: 日輪 電子書籍: 横光 利一: Kindleストア

昨日の東京は初夏のような温度に包まれて歪であった。
てっきり花見日和と思った私は、簡単なパンと卵焼きを作って、家族を連れて桜の木が並ぶ線路沿いへと向かった。
だが、この陽気にも関わらず、桜の木はようやく冬を越えたばかりという寂しい風情で、道路に面した日の当たる枝先だけに、ほんの少し咲くのみだった。調べていけばよかった。早々と線路沿いを脱して、ガストに行った。クーポンを使ってビールも飲んだ。ハンバーグと揚げ物が鉄板の上で繚乱するランチを頼んだ。美味かった。

横光利一を読んだ。「春は馬車に乗って」とか「機械」とか「時間」などの短編を読んだことがあって好きだった。特に「時間」はその表現が面白かった。落語のように感じた記憶がある。以前投稿した井伏鱒二の「荻窪風土記」のなかでも横光が出てきた。作品を読むだけでは性格が想像される人ではなかったが、どうやらキラキラと文壇に現れて、気鋭の作家として何かと話題に上がる人だったようだ。井伏鱒二はニュートラルに書いていたが、人柄や露出の仕方には評価が分かれた人だったのかな、と、私はなんとなく捉えてる。
この「日輪」はその横光を文壇デビューさせた作品らしい。名前からして、厳かで宗教ぽいものかと敬遠しそうになったが、どうやら「卑弥呼をめぐる愛憎物語」を書いたものらしいとわかって拝読。
業の深い神話のようなものかと思って読み進めると、確かにそんな感じだった。「爾は我に玉を与えよ。」「我を赦せ。」みたいなやけに命令口調の多い単純な会話が繰り広げられるのだが、その異様な感じが面白い。
平和な序盤はすぐに崩れて、目まぐるしく卑弥呼をめぐって争いがおこる。卑弥呼の美貌に一瞬にして虜になっては、周囲の人を殺していく男(王族)たちの滑稽さに可笑しみを感じもして、物語自体は少年ジャンプのようでもあった。でも表現には緊張感と相応の凄味があった。

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