豆男

福岡出身の大作家。少し時間ができたので、読んだ本の感想をしたためていきます。

豆男

福岡出身の大作家。少し時間ができたので、読んだ本の感想をしたためていきます。

最近の記事

大佐に手紙は来ない

 周囲の人たちのご機嫌が、同時多発的に、あまり良くない気がする。わたし自身の機嫌が悪いわけではないと信じるが、皆の機嫌が気になって少し悶々としているので、わたしも一員になりつつあるのかもしれない。  すなわち春だ。桜は今日あたりが満開だそうだ。今朝は通勤路を少し遠まわりして、先日はまだ極一部しか咲いてなかった川沿いを歩いた。とても綺麗で、曇天の陰りの中で、少しざわめくような、目が回るような感じもした。おかげで仕事には少し遅刻した。糞食らえだ。  ガルシア=マルケスの短編集を

    • 日輪

      Amazon.co.jp: 日輪 電子書籍: 横光 利一: Kindleストア 昨日の東京は初夏のような温度に包まれて歪であった。 てっきり花見日和と思った私は、簡単なパンと卵焼きを作って、家族を連れて桜の木が並ぶ線路沿いへと向かった。 だが、この陽気にも関わらず、桜の木はようやく冬を越えたばかりという寂しい風情で、道路に面した日の当たる枝先だけに、ほんの少し咲くのみだった。調べていけばよかった。早々と線路沿いを脱して、ガストに行った。クーポンを使ってビールも飲んだ。ハンバ

      • 今夜、すべてのバーで

         相変わらず酒量が多い日々を過ごしている。  妻は健康に関する本を読んでいて、いけない習慣として列挙されるものには、私に当てはまる部分が多いと忠告をくれる。何事も加減が大事であって、食生活も偏ってはいけないとのことだ。週に3日程度は好きな暮らしをして良いが、週に4日程度は節制を心掛けよ、と。健康的とされる水の摂取は、度が過ぎるとかえって内蔵に負担をかけるし、冷たいものの飲み過ぎはいけないのだ。  私は白湯をこまめに飲むことを心掛けているし、家での飲酒は焼酎をお湯割りで飲むこと

        • 華氏451

           昨日から出張で職場の人たちを地元福岡にアテンドした。もつ鍋を食べて中洲の繁華街を散策し、さらに長浜まで歩いてラーメンを食べた。もつ鍋をしっかり食べたけれども、ラーメンの食券を買う際には、せっかくなので替玉の食券を合わせて買うことを絶対的にお勧めした。みんな私のことを信じて購入したが、量が思ったよりも多かったらしく、一杯目の途中から辛そうだった。それでもちゃんと替玉をしていた。小気味よく加えた追いタレが多すぎて、かなり塩っぱくなったようだが、しっかり食べ切っていた。恨めしそう

          身体の節分

           散髪屋の待ち時間だ。昨日は酒を飲まなかった。一昨日も酒を飲まなかった。でも小説も読まなかった。  その代わりに少し仕事をした。例年の会合における役員のご挨拶文の作成で、昨年の構成を踏襲しながら書くのが楽だが、やや情勢も変わったので変えるべきところも多かった。余裕と思っていたが、情勢を捉えるにあたって、その順序を正しく確認するのに時間を要した。少しだけ苛立った。  仕事が終わってすぐ眠ろうとしたが、眠れなかった。夜更かしの妻が眠る時間になっても寝付けなかった。来週は平日に4回

          身体の節分

          As me like it

           今回は読書感想文ではない。もう自分で書きたいと思った。心境などを、柔らかく書いても良いと思った。読書感想文で満足を得ようとするのは自分に対して少しつれない態度を取ってた気がする。  先刻、酒がなくなったので、あまり頭を使うとピリピリして眠れなくなるかもしれない。先週の頭に買った1.8ℓの紙パックに入った焼酎が、お湯割りで飲んだのにもかかわらず、なくなった。この飲酒とは別に4回の宴席があったのにもかかわらずだ。宴席を経るたびに自律神経が毀損していると思う。以前はこの感覚を退廃

          As me like it

          ファイト・クラブ

          久しく更新してなかった。 あれから井伏鱒二の「荻窪風土記」を読み、チャックパラニュークの「ファイト・クラブ」を読んだ。 前者は荻窪に近いところに住んでいたので読んだ。当時の社会の様子、小説家の暮らしなどが詳細に記されてて面白かった。 後者はなんとなく読んだ。不眠症の主人公が、患者のふりをして精巣ガンの互助会に入って「生」を感じることで安眠を得るという最初の設定にグッと引き込まれた。一方で、タイラーのアメリカ製ともいえるめちゃくちゃな行動にドン引きもした。わたしはこれを見たとて

          ファイト・クラブ

          輝ける闇

           開高健を初めて読んだが、匂いや臭いが立ち込めるような、ねっとりとした描写のおかげ(せい)もあって、ゆっくり読み進めることになった。少しだけ中毒性のある感じ。物語は実体験を基に書かれたもので、すべてが物語を進める描写ではないようにも感じたが、当時のベトナムの様子が知れて興味深い。戦争の話なので終始暗い物語ではあるものの、性病?を恐れてパンツ一丁になり、庭先に出て日光浴をする様や、それに至る経緯など、実は割とコメディな部分もあったやに見受ける。終盤、ただ人が死ぬだけの、大義を損

          輝ける闇

          千の輝く太陽

          千の輝く太陽 | カーレド ホッセイニ, 土屋政雄 | 英米の小説・文芸 | Kindleストア | Amazon  知らない世界を知りたいというのが小説を読む理由の、最も前向きな一つだと思う。今回もこの理由に大いに依って選んだ。だってアフガニスタンの物語なので。知らないし想像だにできない。テロや圧政、タリバンや、ビンラディン、9.11。そんな政治的・軍事的な問題をイメージする国だが、市井の生活はどんなだろう。アフガニスタンにルーツを持つ著者どんな言い回しで小説を書くだろう

          千の輝く太陽

          世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド

           久しぶりに春樹先生を拝読し、とてもJAZZな気持ちになっております。しかし、頭の中では作中出てきたボブディランが回ってくる。  “やれやれ”、春樹先生を読むのは学生時代ぶりだから、もう15年程もご無沙汰だったことになる。最後に読んだのは、ダンスダンスダンスか、羊をめぐる冒険だったと思う。  先生に距離を置いたのは好きになり過ぎそうだったから、私のちんけな文章に影響されそうだったから。もう少し大人になって、どうしてもJAZZな気分やらウィットやら“やれやれ”やらに没したくなっ

          世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド

          密林の語り部

          Amazon.co.jp: 密林の語り部 (岩波文庫) eBook : バルガス=リョサ, 西村 英一郎: 本  南米の作家はガルシア・マルケスとパウロ・コエーリョを読んできたが、やはり日本の裏側にある大陸なだけあって、新鮮味のある、野生や神秘を体験できる。  そして、今回のバルガス・リョサ著「密林の語り部」についても、思い切り神秘の世界に浸かったし、 登場人物の魂みたいなものを感じられた。そして読後は文学作品の価値みたいなものを考えた。  今日のSNS等における各種投稿・

          密林の語り部

          山椒魚・本日休診

          Amazon.co.jp: 山椒魚・本日休診 (講談社文庫) eBook : 井伏鱒二: Kindleストア  井伏鱒二の短編集。井伏鱒二は10年以上前に「黒い雨」を読んだことがあって、原爆体験的な印象があったけど、他に計り知れない、奥行きのすごい作品たちがあるのだろうと予感していた。太宰治の師匠だということも知っていた。  「山椒魚」は子供のころに読んだことがあったかもしれないが、中年に近づいた今になっても、子供のころのように、水中にいるかのように読めた。山椒魚が肥大して

          山椒魚・本日休診

          三四郎

          Amazon.co.jp: 三四郎 電子書籍: 夏目 漱石: Kindleストア  夏目漱石は「こころ」だけ読んだ記憶があって、それが少し当時のこころに染みたことも覚えていたから、Amazonの無料タイトルで三四郎を見つけてしまったからには、読むよりほかなしという感じで拝読。  おそらく「吾輩は猫である」も、無料タイトルであるのだろうと思うけど、やはりお子様な向けの物語のような気がして、35歳の働き盛りの男が、読もうとは思わない。  とはいえ、「三四郎」という物語も、読んで

          三四郎

          ベロニカは死ぬことにした

          久しぶりの小説読書習慣を始めるにあたり、まずはどの作品にするかを時間をかけて考えた結果、前向きで力強いものにしたいと思い、こちらを選定した。内容は知らなかったが、「アルケミスト」を書いた作家だったので。 若くて器量も良い女の子が自殺しようとして死ねず、一方で致命的なダメージを受けて余命数日を宣告される。そんな設定の物語。 自殺の理由は、退屈な人生にさよならを告げる程度のもので、おそらく彼女なりに死のタイミングを選んだはずだった。結局死ねず、数日の余命が生まれてしまったというこ

          ベロニカは死ぬことにした