いちごあめ

いちごあめ

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10秒⑨

⑨俺の番 「莉輝斗!!!!!」 聞こえたのは車のクラクションの音だけ。 見えたのは莉輝斗の瞳だけ。 ここでやんなきゃ、いつやる? また、目の前で大切な人を失うのか? もう、自分の手の平から大切なものを失いたくない。 だったら やれ 『時を止めて』 世界が止まった。 さぁ、タイムリミットは10秒だ。俺のすべきことはもう分かってるだろ。 俺は莉輝斗の元へ駆け寄り抱えた。 壊してしまわないように、丁寧に、丁寧に… 莉輝斗を車に引かれないギリギリのところに寝かせた。

    • 10時⑧

      ⑧ぶつかり溶け合う本音 「海!莉輝斗とカイの散歩行ってきてくれない?」 「…うん」 コンコン 「はーい」 「俺…です」 少しの沈黙の後、扉が開いた。 隙間から莉輝斗が顔を覗かせる。 警戒されてはいるが、慣れてくれたのか…?←犬じゃないんだから… 「…何?」 「…散歩、頼まれた」 「え、二人で?」 「…うん。まぁ、そりゃ嫌だよな」 莉輝斗は何か考え込むように俯いて 「別に、いいけど」 と、何故か拗ねたように言った。 「『マミおばさんマミおばさん言ってるけどさ、家族になる気なん

      • 10秒⑦

        ⑦莉輝斗の本音 涙が少し引いてから、ノックの音が聞こえた。 「はい…」 「入るよ」 マミおばさんだ。 本当は入って来てほしくない。 俺の目は腫れていて、きっと泣いていたこともすぐバレる。 慌てて電気を消した。 「あ、寝てたかな?ごめんね」 俺は俯きがちに首を振った。 「なんかあった?」 マミおばさんは何も言わずに俺の隣りに座った。 「顔見せて」 躊躇っていると頬に手が添えられた。 おそらく俺と同じか、それより小さな手だが、温かい手だった。 「やっぱり…泣いてた」 「…いや、

        • 10秒⑥

          ⑥選択肢 「よろしくお願いします…」 「…」 俺の目の前にいる憎たらしい顔をした男の子は不機嫌そうに体ごと逸してマミおばさんに抱きついた。 そして俺に向けていたものと同じとは思えないほどキュルキュルの瞳でマミおばさんを見上げている。 「ねぇ、ママぁ、この人だぁれ?」 「だから言ったでしょう?海君よ。今日から一緒に暮らすのよ」 「…はぁい」 あ、そう。“ママぁ”には従順なんだ?? …いや、こんなことしてたら追い出されちゃうかな… それはそれでいいんだけど… マミおばさんはど

          10秒⑤

          ⑤存在価値 くぅーん、としきりに鳴くカイにイライラしながらスマホをいじる。 あれから学校から帰るとずっとスマホを触っている。 洗濯物はカゴに溜まったまま。 流しには食器が山積みにされていた。 マミおばさんが来ても大丈夫だから、と帰ってもらい、カップラーメンしか食べていない。 今日もまた同じようにスマホを手に取る。 友達からのラインの返信はしたし、TikTokはもう見飽きた。インスタもゲームももう飽きた。 「はぁ…」 机の上には宿題のプリントが4枚。 俺はその忌々しい紙共から

          10秒④

          ④孤独 母さんの葬式に行った。 自分でも何もしていたのか覚えていない。 母さんの白くなった顔を見ても、何の感情もわかない。 ただ、ぼうっとしていた。 真っ暗な世界に置いて行かれたように。 気がついたときには家に戻っていた。キッチンを見ると、マミおばさんがいる。 あぁ、そうだ。今日は泊まっていくって言ってたっけ? 「ほら、服脱いで。部屋にいていいわよ。ご飯できたら呼ぶからね」 母さんがいなくなってからは週に3回、マミおばさんが来て、家事をしてくれる。洗濯の仕方とか、わからないこ

          10秒③

          ③母のぬくもり あれから一ヶ月も経たない頃。 プルルルップルルルッ 家電が鳴った 友達ならスマホで連絡を取るので、家電が鳴るのは珍しい。また勧誘の電話かもしれない。 面倒くさいが今、母さんは買い出しに出ているし… 「はい」 『海さんですか?』 「え?そうですけど」 若い女の人の声だ。しかもこっちの名前を知っている。 足元でカイが遊ぼうとでも言うようにじゃれている。 しゃがんで頭をなでかけたとき… 『急いで神崎病院に来てくださいっ!お母様が事故に合われました』 「…は?…」 事

          10秒②

          「それで…話すことって、何?」 母さんは水をついで、俺を椅子に座らせた。 「海、もう気が付いているかもしれないけれど…さっきのこと」 母さんは俺を見ながら話しだした。 「母さんが海を助けられたのは、10秒だけ、時を止めたからよ」 「は…?」 何を言っているんだ? 時を止める? 「母さんの親も、その親も、10秒だけ時を止められるの」 「…なんか、変な映画でも見たの?そんなこと、あり得るわけ無いだろ?」 「あり得るから海はここにいるんでしょ?」 「…」 どういうことなのか、全く頭

          10秒①

          ①始まり 「行ってきまぁーす」 「あ、待って。母さんも買い物に行くから、途中まで一緒に行きましょ」 「えぇ?まぁ、いいけど」 俺は飼い犬、カイのリードを引っ張って家を出た。カイは嬉しそうにしっぽを振りながら走り出す。 「わっちょっ待てって!」 「朝の散歩、行ってないの?」 「うん」 「連れてってあげなさいよ」 「んー」 「散歩にも連れて行くって約束で飼ったのよ?」 「んー」 「カイが可哀想でしょ」 一緒に行くんじゃなかった。 俺はため息をついた。 カイはそんな俺の気持ちなんて