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10秒④

④孤独
母さんの葬式に行った。
自分でも何もしていたのか覚えていない。
母さんの白くなった顔を見ても、何の感情もわかない。
ただ、ぼうっとしていた。
真っ暗な世界に置いて行かれたように。
気がついたときには家に戻っていた。キッチンを見ると、マミおばさんがいる。
あぁ、そうだ。今日は泊まっていくって言ってたっけ?
「ほら、服脱いで。部屋にいていいわよ。ご飯できたら呼ぶからね」
母さんがいなくなってからは週に3回、マミおばさんが来て、家事をしてくれる。洗濯の仕方とか、わからないことが多くて困ってたから助かったけど。
「マミおばさん」
「ん?」
「来なくてもいいよ」
マミおばさんは手を止めて振り向いた。
言葉が足りなかった。
「おばさんにも家族がいるんだから、大変でしょ?俺は大丈夫だから」
「何言ってるの、海も家族でしょう?」
「家族」
「…困ったら連絡しなさい」
お金は貯金があったから平気だけど、そのうちなくなる。それでも、今は一人になりたかった。
マミおばさんはご飯を作ってくれたあと、心配そうに帰った。冷蔵庫にはたくさんの作り置きのご飯があった。
なんだか申し訳なくなる。
マミおばさんにこれからお世話になるけれど、しばらくはこの家に残ることにした。
カイが寂しかったというようにすり寄ってきた。
「もう、母さんはいないよ」
葬式もあって、なんとなく実感する。
でも…
不思議なことに母さんがいなくなってから、涙は出ない。
葬式で泣いている人たちがたくさんいる中、俺だけ泣いていなかった。
マミおばさんは整理ができてないだけだ、と言っていた。
そのうち気持ちの整理ができてくるから、泣きたいときに泣くのがいい、と。
でも、俺に泣く資格はあるのか?
だって…
母さんが、あのとき俺を助けなければ…
考えちゃいけないことを考えてる
分かってるけど
俺を助けなければ、母さんは時を止めて生きることができた…のに。
何も知らないカイはぴょんぴょん家の中を走ってる。
俺は横になる。
俺はなんで生きてるんだよ…

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