二人は時空の旅人
その日、ウサギは図書館の分類番号235.3「パリの歴史」の書架の前で立ち止まった。ノートルダム大聖堂が映る本の表紙に目を留めた瞬間、遠い記憶の名残がふわりと心の中に浮かび上がってくる。
「パリでは5年ぶりに公開が始まったね。僕達も大聖堂の息吹に触れてみない?」通りかかったカメが声をかけると、ウサギは迷うことなく、こくりと頷いた。
「ここでは、火災にあったノートルダム大聖堂が、どんなふうに復興されていったのか、その過程を知ることができるんだよ」展示場に着くと、カメは静かに語った。
「パリでのことを思い出すわ。大聖堂は思っていた以上に広くて、ステンドグラスは言葉にならないほど美しかったの」ウサギは遠い記憶を掬い上げるように呟いた。
静かな館内には、ノートルダム大聖堂の映像や模型が、失われた時間を伝えようとするかのように静かに並んでいた。
「これで探検するのね」
ウサギはスタッフから手渡されたタブレットに視線を落とし、じっと画面を見つめた。
「このHistoPadを使うと、『時空の扉』が開くんだ。12世紀まで遡れるから、本当にタイムマシンみたいだね」
二人は最初の「時空の扉」へ向かうと、鍵穴をそっと合わせた。
二人はそっと、ひとつずつ時空の扉を開いていった。タブレットに浮かび上がる風景は、映画の一コマを切り取ったように鮮やかに移り変わっていく。
「ねえ、この光っているのは何かしら?」
ウサギは小さな声でカメに尋ねた。
「10個隠されている宝物のうちの一つだよ。全部見つけるとご褒美がもらえるらしい」
「つまり、宝探しってことね?」
ウサギの目が、思わずキラリと輝いた。
「ずっとパリのことを考えてたら、また行きたくなっちゃったわ」ウサギは目を輝かせながら声を弾ませた。
「君の思い出を聞きながら歩くパリなら、きっと特別な時間になるね」カメは微笑んで、静かに言葉を添えた。
二人はそっと手を取り合い、静かに大聖堂に背を向けた。冷たい風が吹き抜ける帰り道、二人の周りには、不思議なくらい温かな空気が漂っていた。