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タローのダンス

その日、ウサギとカメは不思議な力に引かれるかのように、表参道の岡本太郎記念館を訪れていた。降り続く小雨を置き去りにして、二人はそっと傘を閉じ、館内に用意されているスリッパに履き替えた。そして、ゆっくりと、絵画が待っている2階へと向かった。

「岡本太郎にダンスって、なんだかイメージがなかったけれど…」ウサギはそう言いながら、目の前の絵をじっと見つめていた。絵の中の色彩は激しく、それでいてどこか憂いを帯びているようにも見えた。彼女の横では、カメが、絵の横にある説明文に目を落としていた。

「太郎は、『ダンスは、自分にとって精神と肉体の至福を運んでくるものなのだ』と心の底から感じていたみたい」カメがそう言うと、ウサギはほんのりとした驚きを顔に浮かべて彼の方を見つめた。「太郎の作品には、ダンスがもたらす生命の躍動が、しっかりと流れ込んでいるのね」

ダンス   1952年

「そういえば、キース・ヘリングもダンスをこよなく愛していたわ。彼の創造の源泉は、音楽とダンスにあったのよね?」ウサギがそう問いかけると、カメは静かにうなずきながら答えた。「そうだね。ヘリングの作品に描かれている活気ある線たちは、リズムと動きをそのままキャンバスに移したかのようだった」

Keith Haring    Untitled(dance)

カメは静かに説明文を読み続けた。「太郎は『ダンス』を、モザイクタイルで制作した。それなら屋外にも置けるから、芸術をもっと社会の中に広められると考えたんだろうね」 ウサギはそっとカメを振り向いた。「それって、ヘリングが地下鉄の掲示板に絵を描いた理由と同じじゃない?より多くの人に作品を届けたいという気持ちが同じ…」

群像  1949年  油彩

二人は、作品に込められた深い意味を心に描きながら、いつまでも岡本太郎の独特な世界観に魅了されていた。

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