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たった一つのハートを求めて

古くからの和菓子屋や、行列ができる飲食店が目を楽しませる神楽坂の通りを、ウサギとカメが人波を縫うように歩いていた。二人が脇道へ足を踏み入れると、周囲の喧噪が一瞬で遠のいた。

今、二人の目の前に広がっているのは、まるで迷宮のような複雑で入り組んだ横丁の細道だった。それは「かくれんぼ横丁」と呼ばれていた。足元に石畳がどこまでも伸びており、二人はその上を慎重に歩いた。

かくれんぼ横丁

「ねえ、ウサギさん。さっきから下ばかり見ているけど、どうしたの?」かくれんぼ横丁に入るなり、下を見ながら蛇行しているウサギを見て、カメが尋ねた。「探し物をしているの。私が見つけたいのは、特定の形をしたピンコロよ。もし珍しい形を見かけたら教えてね」と彼女は言った。

しばらくしてウサギが呟いた。「見つからないわね…。これだけ数が多いと、見つけるのは難しいわ」彼女は諦めたように視線を上げ、そっと額の汗を拭った。

「探しているピンコロって、いったいどんな形をしているのかな?」とカメが聞くと、「私が探しているのはハートの形なの」とウサギはそっと言って、顔を赤らめた。

「ハートの形?確かに見かけたよ」と、カメが静かに口にすると、ウサギは急に動揺し、「えっ、本当?どうして早く教えてくれなかったの?」と言いながら、彼をそっと揺さぶった。

二人が少し戻ると、カメは「ほら、ここにあるよ」と指さした。そこには、静かに輝くハート形の石がひっそりと横たわっていた。ウサギは思わず、カメを見つめた。

28000枚のピンコロの中のたった一つ

ウサギがかすかに震える声で、「このハートを二人で見つけると、縁が結ばれるんだって」とつぶやくと、カメは「そうなんだ…」とゆっくりと頷いた。

時間が少し経ち、その言葉の深い意味がカメの心に静かに沁みていった。カメは、ふいに顔を赤らめ、「それって……」と声を潜めた。そばではウサギが、何か秘密を共有するかのように、いたずらっぽく微笑んでいた。

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