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ハロウィンなんて怖くない

「カメくん、ここ、イングリッシュガーデンで合ってるよね?」ウサギは息を詰め、彼の背中に身を隠した。震える指の先には、見覚えがあるようで、でも、いつもとは少し違って見える建物が闇夜に浮かび上がっていた。

横浜イングリッシュガーデン

恐る恐る園内に一歩足を踏み入れた途端、ジャック・オー・ランタンが不気味に笑いかけてきた。ひやりと冷たい風がウサギの首筋を撫で、彼女は思わず身を縮めた。

「私、かぼちゃの料理は好きなんだけど、かぼちゃのおばけは苦手なの…」ウサギは聞き取れないぐらい小さな声で呟いた。
「大丈夫。ただの可愛いかぼちゃだと思えば怖くないから」

や、やっぱり怖いけど…

歩き続けていると不意に人影が途絶え、深い静寂が訪れた。ふと顔を上げれば、月も星も見えない。いつもとどこか違う表情を見せるバラの花が、薄暗いライトにそっと浮かび上がっていた。

「ここは少し明るいわ。でも…ここって、もしかして…」彼女の瞳は不安で揺れた。

「…墓場だね」カメはあっさりと言った。
「ハロウィンの雰囲気が、ここまでしっかり作り込まれているんだね」カメはその場の空気をじっくりと味わうように呟いた。

「あれは…何?」赤いバラの上で、何か白いものがゆらゆらと揺れている。ウサギははっとして、その正体に気づいた。
「で、でたぁ……!」その瞬間、ウサギはふっと意識を手放した。

「ここは…どこ?」 ウサギが気がつくと、カメの優しい声が耳に届いた。「大丈夫、ここなら安心だから。ほら、あんな小さな子まで、楽しくかぼちゃと遊んでるよ」

「子どもは子ども、私は私…。もう大丈夫だから。えっと、べ、別に最初から怖くなんかないんだから!」ウサギは少し息を整えながら、精一杯に空威張りしてみせた。

「きみの背中におばけがいるよ」
「えっ、うそ!」とっさにカメに飛びついたウサギの勢いに、カメはふらふらと倒れ込んでしまった。

「あ、カメくん、ごめんね」ウサギは申し訳なさそうに呟きながら、気を失ったカメをそっと背負い、出口へと歩き出した。

その二人の後ろ姿を、かぼちゃとおばけたちが、心配そうにじっと見つめていた。

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