おしゃべりな たまごやき
暑さにうなされて早く目が覚めた朝、ウサギはぼんやりと天井を見つめた。
「こんなに暑いと眠るのも一苦労ね。朝ごはんにはまだ早いし、何か読もうかしら」シャワーを浴びて少しだけ涼しさを取り戻すと、一冊の本に手を伸ばした。
彼女が選んだのは、「おしゃべりなたまごやき」という絵本だった。
「王様って、最高指導者のことよね。一国を束ねる人。でも、この王様、ちょっと変わっているのよね」と、ウサギは静かにページをめくり始めた。
「この王様は休み時間が大好きなの。『遊ぶのが一番楽しい』っていう王様の言葉に、思わず頷いちゃうのよね」 ウサギはふふっと笑みを浮かべた。
「その王様がひと騒動を巻き起こすのよね。ぎゅう詰めになったニワトリ小屋の鍵を、うっかり開けちゃうの。お城中が大騒ぎになって、犯人探しが始まるわけ」
「王様はしれっとして『犯人をさがせ!』なんて言っちゃってるし。やれやれ、困った王様ね。でも…私も同じことをしちゃうかもしれないわね。ん? それって、私に王様の素質があるってこと?」彼女はそう言って、少し得意げに背筋を伸ばした。
「ニワトリ小屋の鍵を開けたのが王様だってこと、知っているのはニワトリたちだけ。その中の一羽がね、王様が自分の部屋の窓からそっと鍵を捨てるのを、見ちゃったの。何も言わず、ただじっと見つめていたのよ」
「ニワトリは話すことができないけれど、王様の秘密は結局ばれてしまうのよね」
ウサギはにっこり笑って本を閉じた。
「さてと…お腹がすいたわね」彼女は冷蔵庫から卵を取り出し、ゆっくりと目玉焼きを作り始めた。フライパンの上でじわじわと姿を現していく目玉焼きを、お皿にそっと移して、窓辺の椅子に腰を下ろした。
ナイフとフォークを手に取り、目玉焼きを切り分ける。その瞬間、絵本を思い出した彼女は思わず囁いた。「僕が鳥小屋を開けたのを誰にも言うなよ」
<おしゃべりなたまごやき>
寺村輝夫・作/長新太・画/福音館書店