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街どろぼう
真夜中の暗闇の中、ウサギはぱちりと目を開けた。「どうしてこんな時間に目が覚めちゃったの…?」軽く息を吐き、もう一度まぶたを閉じる。どこか現実味のない夜の静けさが、彼女をそっと包み込んでいた。
どれくらいそうしていただろう。眠れないことに気づくと、まるで世界の片隅にぽつんと一人取り残されたような孤独感が、彼女の胸の奥でじわりと広がっていった。
彼女は手元に小さな明かりを灯すと、ベッドを抜け出し、本棚の中に指を滑らせた。迷うことなく一冊を抜き取ると、寝ぼけた指先でそっとページをめくり始めた。
本の中で、山の上に住む巨人はひとりぼっちの夜を過ごしていた。ウサギは彼の孤独がまるで自分のもののように感じられて、気がつけばいつの間にか心を寄せていた。まるで、自分も同じ夜を過ごしているみたいに。
寂しさに耐えきれなくなった巨人は、ある夜、とうとう闇に紛れて山を降りて、ふもとの街からひとつの家をそっと抱えて持ち帰った。そして、まるで秘密を打ち明けるように囁いた。「ここで一緒に暮らしましょう。欲しいものは、何でもあげるから」と。
「でも、街の人はこう言ったの。『私たちだけじゃ寂しいから、親戚の家も一緒に運んでほしい』ってね」彼女はページをめくる手を止めて、巨人の気持ちに思いを馳せた。
巨人は言われるがままに家を運び続けた。気づけば、ふもとの街はすっかり山の上へと移されてしまっていた。それでも、巨人の心にはぽっかりと穴が開いたままだった。どれだけ頑張っても、彼は誰とも友だちになることができなかったのだ。
「だから、彼は山を降りることにしたの。ふもとの街には一軒だけ家が残っていたわ。その家には、誰にも呼ばれなかった、ひとりぼっちの男の子が住んでいたのね。そう、やっと彼にも友だちができたのよ」
ウサギは小さくあくびをしながら、次第に意識が霞んでいった。ふと気づくと、夢の世界からカメが迎えに来ていた。眠りについた彼女も、もうひとりぼっちではなかった。
<街どろぼう>
junaida ・作 /福音館書店