ひと足早く夏を先取り
ウサギは図書館の窓辺で中庭をぼんやりと眺めていた。「もう七月も半ばなのに、毎日雨ばかりね」と、ため息混じりに呟いた。
「早く満開の向日葵に囲まれて、ぱあっと花咲く花火を見上げたいな」と、目を閉じて夏の景色を思い浮かべた。
「任せておいて。分類番号575.98の書架から花火の本を探してくるから」 目を開けると、カメが笑顔で隣に立っていた。
その日の午後、しとしと小雨が降る中、二人は「HANA・BIYORI」の小道を歩いていた。「雨の日の植物園も素敵ね。花柄の傘を貸してくれるなんて、なんて粋なサービスなの」ウサギは微笑みながら傘をくるりと回した。
「でも、本当にここに夏の景色があるの?向日葵も花火も見えないんだけど…。また写真じゃ嫌なんだから」と、彼女はカメの袖をひっそり。
「大丈夫。今度は打ち上げ花火がちゃんとあがるから」彼女の顔色を窺いながら、カメも傘をくるりと回した。
HANA・BIYORI館に足を踏み入れると、浮遊する植木鉢や壁面を彩るフラワーゲートが、まるで夢のような花の世界を作っていた。
すると、温室内が突然暗くなり、プロジェクションマッピングの光が二人を包み込んだ。
「本当だわ、まるで辺り一面のひまわりに囲まれているみたい」と、ウサギが嬉しそうに声を弾ませた。
「打ち上げ花火も素敵だわ。やっぱり夏は花火ね」と、ウサギは小さく跳びはねた。
「花火を見てたらお腹すいちゃった」
カフェのカウンターで注文を済ませると、二人は中庭が見える窓辺の席に腰を下ろした。
「ちょっと夏を先取りしてみると、雨も悪くはないわね」フラペチーノを飲みながら、ウサギはそっと窓の外を見つめた。
今年の夏、どんな物語が二人を待っているのだろう。雨音が響く中、彼女の心は期待で膨らんでいった。