幕開けは笑顔とともに
その日、ウサギとカメが大手町駅から地上へ出ると、新春の澄んだ空気が二人を優しく包み込んだ。胸いっぱいに吸い込むと、清々しさが心の奥まで広がってくる。
「新年って、どうしてこんなにもおめでたい気分になるのかしら?」ウサギは軽やかに宙を舞うと、後ろを歩いていたカメの方へくるりと振り返った。
「そういうときは、おめでたいものをしっかり目に焼き付けると、もっと運気が上がるんじゃないかな」カメは微笑みを浮かべながら、彼女の言葉に静かに応えた。
小さな笑い声を響かせながら歩いていた二人は、気づけば大手門を抜け、皇居三の丸尚蔵館の前に立っていた。
「見て、 宝船があるわ!」
静かな館内に足を踏み入れた瞬間、ウサギの瞳が輝いた。「七福神じゃなくて、美味しそうな食べ物がたくさん乗ってるわ。まるで、私のための宝船みたいね」
「ここには、おめでたいことを告げる伝説の生き物たちも集まっているんだよ。ほら、あそこに鳳凰がいる」カメは静かに指さした。
「鳳凰は、徳の高い君主のもとに現れる瑞鳥とされていて、おめでたい出来事の前触れといわれているんだよね」
「羽の色がなんて綺麗なの。見ているだけで幸せになれそうだわ」ウサギは思わず、うっとりと目を細めた。
「ここにある麒麟も、聖王の時代に現れるとされる瑞獣で、慶事の前触れだといわれているんだよ」
「縁起物の鳳凰と麒麟が揃っているなんて、これは何かとびきり素敵なことが起こる前触れに違いないわ!」ウサギは瞳を輝かせ、子どものように声を弾ませた。
「それだけじゃない、ほら、あそこには富士山がある。末広がりの美しい形だけじゃなく、その名前から『不死』にもつながる、とても縁起の良い山なんだよ」
「こんなに縁起物に囲まれていると、幸せな気持ちで胸がいっぱいになっちゃうわ…。あとは、お腹も満たさなくちゃね!」ウサギは嬉しそうに笑った。
「美味しいものを食べて、たくさん笑ったら、きっと運気も上がるわ。『笑う門には福来る』って、昔からそう言うもの」
ウサギはカメの手を引き、澄んだ空気の中へと弾むように駆け出していった。その笑顔はひと足早い春の陽射しのように、暖かな輝きを放っていた。