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夢を詰め込む3分間の魔法

その日、ウサギは図書館の閲覧席で、なんとなくカメの手元に目をやった。そして、その手にある本を見て、小さく首をかしげる。
「それ、どうしたの?図書館の本じゃなさそうだけど…」

「ネットを見てたら、勢いで買っちゃったんだよね」 そう言いながら、カメは少し照れくさそうに笑った。「でも、宅配って便利だよね。いつから始まったんだろう?」

クロネコヤマトミュージアム

静かなミュージアムの館内で、カメは展示された資料に目を留めた。「宅急便が始まったのは1971年なんだね。その時は、荷物がいつ、どこから発送されたのか分からないっていうのが、大きな課題だったらしいよ」

「宅急便がどんなものかを世の中に知ってもらうのも、きっと大変だったのね。それまでになかったサービスを説明するのは、やっぱり難しかったに違いないわ」

「ねえ、これ…何だと思う?」
ウサギは何気なく、積み上げられた荷物の山に目を向けた。

「荷物を積み込む体験コーナーだね。3分以内に全部詰められたら、ミッションクリアらしい」 カメがそう説明すると、ウサギは瞳をキラリと輝かせた。

「いいわ、このウサギ様が挑戦してあげる。2分、いや、1分で十分よ」ウサギはさっとコートを脱ぎ、軽く体を動かし始めた。

ウサギの動きはあまりに速くて、残像が静かな空間で揺れて見えた。形も大きさもさまざまな荷物が、ふわりと宙に浮かび、次々とカートに収まっていく。

「あれ?」ウサギの動きがぴたりと止まった。カートをじっと見つめたまま、小さな声でつぶやく。「全部は入らないわ…」

彼女が成す術もなく立ち尽くしている間に、「終了です!」というスタッフの声が静かなフロアに冷たく響いた。

「どうして…こんなはずじゃなかったのに」ウサギはその場にしゃがみ込み、深く息を吐いた。

「次は僕がやってみるよ」
カメは静かに荷物に歩み寄り、スタートの合図が響くと、落ち着いた手つきでひとつずつカートに収めていった。
 
終了の合図と同時に、最後の荷物がするりと滑り込んだ。まるで最初から決まっていたかのように、すべてが驚くほど完璧だった。

「悔しいけれど、今日はあなたの勝ちね」
ウサギはカフェの片隅で静かに息をついた。カメを見つめるその瞳の奥では、負けず嫌いの炎がまだ小さく揺れていた。

チャイミルクティー
クロネコマドレーヌ・クッキー

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