江の島岩屋の龍神様
午後の太陽がまだ元気に輝く昼下がり、ウサギは図書館の窓辺にそっと身を寄せ、外の景色をぼんやりと眺めていた。ふと、「もっと夏の思い出、作りたいな」と、自然と口をついて出たその言葉に、彼女自身も驚いた。
彼女の隣で外を眺めていたカメは、その言葉を逃さず聞くと、静かに頷いて、そっと彼女の手を取った。図書館を後にし、遠くから聞こえる蝉の声を背に、二人はゆっくりと駅へ向かった。
片瀬江ノ島駅に降り立つと、眩しい日差しにウサギは思わず目を細めた。潮の香りが微かに鼻をくすぐり、海水浴場から聞こえる笑い声が風に乗って耳に届いた。
江の島に着くと、二人は人混みをかき分けながら、細い道をゆっくりと上っていった。稚児ケ淵の岩場から海を眺めていたウサギは、「このまま海の向こうへ消えてしまえたらいいのに」と小さく呟いた。
第一岩屋に足を踏み入れると、そこはひんやりとした静寂の世界が広がっていた。二人かが自然と寄り添うようにして進んでいくと、手燭を渡された。
「ここから先は暗くなるし、天井も低くなるから、気をつけてね」とカメが優しく囁き、彼女の手をそっと引いた。二人は息を合わせるように、慎重に歩を進めた。
第二岩屋に足を踏み入れると、虹色の灯籠がふんわりと周囲を照らし出していた。「雰囲気が変わって、灯りがとても綺麗ね」と、ウサギは足を止め、灯籠の光がその瞳に映り込むのをそっと楽しんだ。
「江の島は昔から龍神信仰の地として栄えてきたんだ。この岩屋も龍神が宿る場所とされているんだよ」と、カメは静かに口にした。そして、ついに二人はパワースポットへと辿り着いた。
「見て、『龍の前で手を叩いてみて』って書いてあるわ。それじゃあ、ちょっと派手にいくわよ」とウサギは気持ちを集中させ、得意げに大きく手を鳴らしてみせた。
その瞬間、龍の鳴き声が雷鳴のように響き渡った。驚いた二人は「ごめんなさい!」と叫び、慌ててその場から逃げ出した。