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来世への黄金の旅
その日、ウサギは図書館の分類番号242「エジプト史」の書架の前でふと立ち止まった。不揃いな大きさの背表紙が、どこか不思議な魔法の書物のように感じられる。
「世界最古の文字を操り、世界最古の時計を生み出した古代エジプトの人たち。もしできることなら、一度会ってみたいわ…」そう呟いたウサギの瞳に、ゆっくりとこちらに近づいてくるカメの姿が映った。
「古代エジプト人に会える場所って、どこかにないかしら?」彼女の声は、砂漠をなでる風のように穏やかに響いた。
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体感型古代エジプト展
古代の気配が漂う空間には、ツタンカーメンの王墓から発掘された副葬品が静かに並んでいた。黄金の神々の眼差しは、遥かな時を超え、今なお秘められた物語を語りかけようとしているようだった。
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「ねえ、ツタンカーメンが眠っていた棺って、どれのこと?」ウサギはライトに照らされた三つの棺を指さした。
「ツタンカーメンは、黄金のマスクを身に付け、三重の棺に収められ、その外側をさらに四重の厨子が守っていたんだ」 カメは、秘密を打ち明けるように穏やかに語った。
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「ミイラは来世で復活するために必要な体だから、とても大切に保管されていたんだよ」
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「でも、思うのだけど、来世で復活なんて、本当にできるのかしら?」ウサギは小さく首をかしげながら、そっと問いかけた。
「そのためのガイドブックがあるんだよ。『死者の書』って言うんだけど、それには来世への道筋や、困ったときに使える呪文が詳しく書かれているんだ」
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「もちろん、冥界では厳しい審判が待ってる。でも、たとえ心にやましいことがあっても冥界を抜けられるように、裏技まで書かれてたらしい」カメは説明を続けた。
「王墓には、来世で労働を肩代わりしてくれるシャブティという像も副葬されている。王様は農作業なんてしないからね」
「なるほどね。そこまで手厚いなら、私でも来世に行けそうな気がするわ。あとは、美味しい食べ物さえあれば十分ね」
ウサギはそっと目を閉じ、古代エジプトの大地を踏みしめる自分を思い浮かべた。遥か昔の神々が、時を超えて静かに彼女を見つめているような気がした。