ここは紫陽花の宝箱
雲の間から時おり日が差す中、ウサギとカメは横浜イングリッシュガーデンの紫陽花に包まれていた。
二人が目にしているのは、緑のトンネルに優雅にぶら下がる雨傘の連なり。雨傘は色とりどりの紫陽花と共に、6月の空間を美しく染め上げていた。
ウサギはその光景に心を奪われていたが、やがて言葉を取り戻すと、そっとつぶやいた。「紫陽花と雨傘って、本当にお似合いね」
見慣れている紫陽花とは異なる、初めて目にする品種が二人の目を引いた。それはまるで絵本の中に咲く花のように、一つ一つが鮮やかで、それぞれの美しさを持っていた。
「これ、全部紫陽花なの? 」と、ウサギは目を輝かせた。「こんなにも多くの種類があるなんて、夢の中みたいだね」カメの言葉に、二人の間に優しい時間が流れた。
「実はね、日本原産の紫陽花の美しさに初めて気づいたのは、ヨーロッパの人たちだったんだよ」とカメは静かに語り始めた。
「江戸時代に来日していた人々が、この花をヨーロッパに紹介した時、『東洋のバラ』としてすぐに人気になったんだ」
「わかるわ。ここにある紫陽花は宝石のようだもの。身体が小さくなって、宝石箱の中に入った気分だわ」ウサギはうっとりとしてため息をついた。
二人は物語に誘うかのような小道を進んだ。「こうして静かに楽しむのもいいわね」ウサギはカメの手をそっと引き寄せた。生い茂る木々の間からこぼれる陽射しが、二人を優しく照らしていた。
庭園を回り終えると、二人はカフェで「あじさいソーダ」を手にしていた。
「青りんごソーダとブルーハワイのゼリーがまるで紫陽花そのものね」ウサギの瞳は麦わら帽子の下で、一層輝きを増していた。
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