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江の島幻想夜話
江の島岩屋の龍神様からあたふたと逃げ出したウサギとカメは、乱れた息を整えながら、互いにちらりと目を合わせた。
「まさかあんなふうに龍神様が吠えるなんて思いもしなかった。ダンジョンでラスボスに出くわしたような気分だよ」と、カメは声を震わせた。
「あなたは本の中で、いつもあんな相手と戦っているの?」と、ウサギは信じられないという顔をしてみせた。
ジャスミンティーで乾いた喉を潤しながら歩いていると、前方にシーキャンドルが浮かび上がってきた。その展望台に降り立ったウサギは、風に乗るような軽い足取りで、一周くるりと巡った。
「あれが江の島弁天橋で、その右側が三浦半島ね」と指さしながら口にするウサギの髪を、海からの風がふわりと揺らした。
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やがて、静かに夜の帳が降りた。
「見て!『江の島』って、光の文字が浮かび上がってきたわ」と、ウサギが声をあげた。
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「これから花火が上がるんだよ」
光の文字のカウントダウンが「ゼロ」になり、夜空に大輪の光が舞い上がった。
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「驚かせたかったんだ」と、カメは少し照れたように言った。
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「だから、夜になるまで待っていたのね」と、ウサギは優しく微笑んだ。
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花火が終わり、余韻を胸に抱いて、二人は帰り道を歩き始めた。
「天女と五頭龍が楽しそうにおしゃべりしてるわ。何を話しているのかしらね」と、ウサギは端心門をそっと見上げた。
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江ノ島の入口まで戻ると、カメが売店に駆け寄った。「海といえばソフトクリームでしょ」ウサギは差し出された黄金色の冷たさを、両手でそっと受け取った。
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「それじゃあ、あれは私からのお返しね」
江の島弁天橋に差し掛かると、ウサギは輝くハートを指さした。
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弁天橋を渡り切り、二人は駅に辿り着いた。
夏の夜は、どこか現実から離れたような、不思議な夢に続いていた。
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