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新春の小さな誓い
その日、大手町駅で電車を降りたウサギは、皇居を目指してゆっくりと歩き始めた。澄み切った冬空はどこまでも高く、そして果てしなく青かった。
歩いていると、歩道を駆け抜ける女性ランナーとすれ違った。思わず振り返り、遠ざかっていく背中を目で追ってしまう。
「皇居ってランナーたちの聖地だったわね」彼女は心の中でつぶやいた。
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大手門をくぐると、空気がふっと変わった。目の前に、歴史の気配を纏った大きな石垣がそびえ立ち、江戸時代の番所の建物が静かに佇んでいる。
考えてみれば、こうしてふらっと皇居の中に足を踏み入れるのは初めてだった。自分にとって皇居とは、ただ走るための場所でしかなかったのだ、と改めて気づく。
ウサギはそっと息を吐き、静かに前を向いた。見失った何かを探すような思いを胸に、一歩ずつ丁寧に歩き始めた。
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しばらく歩くと、目の前に芝生が広がり、その脇に並ぶ木立の中に、小さな表示板が立っているのが見えた。
「ここは果樹園だったのね。江戸時代のリンゴや柿ってどんな味がしたのかな…」
「もしかしたら、将軍さま以外は食べられなかったのかしら?」そんなことを考えているうちに、思わず笑みが零れた。
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「でも、もし天守台が残っていなかったら、ここに江戸城があったなんて、きっと信じられなかったわね」
天守台に登り、少し高い場所から四方を見渡すと、それまで以上に皇居の広さが実感として伝わってきた。
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「こんなに広い皇居なんだから、一周するのだって大変だったわけよね」と思わず呟く。それを知らずに、いきなり10周も走った日のことを思い出し、「よくやったわ、私」と小さく笑った。
北桔梗門を抜けて皇居を後にすると、また視界にランナーたちの姿が映る。まるで息遣いまで聞こえるようで、見ているだけで、眠っていた熱い想いが少しずつ蘇ってくる。
「次は、ちゃんと走る服で来ようかしら」
ウサギは澄み渡る青空を見上げ、心に小さな誓いを立てた。未来に続く新たな道が、そっと心の中に描かれていた。