旧万世橋駅の駅舎にて
図書館に向かって、汗を拭いながらゆっくりと歩いているカメの背中に、元気いっぱいのウサギが追いついた。
「ねえ、私、撮り鉄してみたいの!」ウサギは夢見るような瞳で、突然そう言った。
「電車の写真なら、図書館の分類番号686.2の書架にあると思うけど、自分で撮るならやっぱり現場だね」カメはそっと彼女の手を取ると、来た道を引き返し駅へと向かった。
電車を降りた二人は、味わい深いレトロなレンガ造りのマーチエキュート神田万世橋に辿り着いた。
「かつて、ここには万世橋駅があったんだ。今でも駅だった頃の面影が残っているんだよ」カメは穏やかに言いながら、旧万世橋駅へと続くガラスの扉を静かに開けた。
「この階段は、1935年に作られたから1935階段って呼ばれてるんだ。ここを上ると、電車がすぐ近くで見られるんだよ」
「ここ、もともと駅のホームだったから線路に挟まれているのね」とウサギが言った瞬間、電車が轟音と共にすぐ横を通り過ぎた。彼女は少し驚きながら、慌ててシャッターを切った。
「ここは今や撮り鉄にとっての絶好のポイントなんだよ。この先には、電車がすぐ近くを走るカフェもあるんだ」
電車が去るのを見届けた二人は、別の階段を選んで地上階へと降り始めた。「これは1912階段だね。1912年の開業時に作られたから」と、カメは静かに説明した。
「それにしても、御茶ノ水駅から西は中央線で、東は総武線なのね。そんなこと全然知らなかったわ」ウサギは感慨深げに呟いた。
「撮り鉄、とても楽しかった。次は違う場所からも撮ってみたいわ」とウサギは目を輝かせて言った。こうして、彼女の夢はまた新たな一歩を踏み出した。