一九八四年
その日、ウサギは図書館に続く道をぼんやりとした視線で歩いていた。彼女は昨夜、ジョージ・オーウェルの「一九八四年」を読み終え、その物語の世界観に深く浸っていた。
「この本で一番心に刺さったのは、『言葉を破壊する』という考え方だわ。言葉が破壊されれば人の思考の範囲が狭くなるなんて、今まで考えたこともなかった」とウサギは内心で動揺しているようだった。
彼女の隣を歩くカメは静かに頷いた。「僕たちが感情や気持ちを細やかに表現することができるのは、それに相応しい言葉があるからだよね。もし言葉が破壊されてしまったら、僕たちはもはや今の自分たちではなくなるだろうね」
「自分の気持ちを言葉で伝えるのは難しい。適切な言葉を知り、適切な時に使わなければならないから。でも、私は言葉とともに生きていきたいの」とウサギは呟いた。
ラジオのパーソナリティであるウサギのもとには、リスナーから多くの言葉が届く。日々、言葉の力を感じている彼女にとって、言葉は常に宝物だった。
「大丈夫、言葉の破壊なんて、私が絶対に許さないわ」とウサギはカメを見ながら優しく笑った。二人の歩む道端では、春の風が梅の花を気持ちよさそうに揺らしていた。
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