一周15分の夢の中へ
図書館の閉館を告げるアナウンスが響き、ウサギとカメは駅へ向かって歩き出した。夕方の名残がわずかに感じられる空気は、昼間の暑さを少しずつ手放し始めていた。
星が瞬き始めた空を見上げていたウサギは、ふっと目を細めながら、ぽつりとつぶやいた。「うっとりする夢、今夜見られたらいいのにな」
カメは彼女の言葉にしばし考えを巡らせた。そしてふと閃いたように頷くと、そっと彼女の手を取った。
みなとみらい駅で電車を降りた二人は、夜の静けさの中で、闇に浮かぶように輝く街を、言葉少なに歩き始めた。
「夜の遊園地って、こんなにキラキラなのね。そう言えば、遊園地に来るのなんて何年ぶりかしら」とウサギは懐かしそうに目を細めた。
一際目立つコスモクロックへ、カメは迷わずウサギを誘った。ウサギが観覧車の大きな輪を見上げると、胸の奥がふわりと浮き立つのを感じた。
やがて二人の番が巡ってきて、ゴンドラがゆるやかに空に浮かぶと、まるで夢の中のような時間が、そっと始まった。
「私、ジェットコースターだけじゃなくて、観覧車も好きよ」とウサギが窓の外に視線を預けながら言葉をこぼした。「ゆっくりと上がっていく浮遊感も、少しずつ景色が変わっていくところも好き」
「少しずつ変わっていく景色は、その一瞬一瞬が二度と繰り返されないからこそ、美しいのよね」とウサギは、きらきらと瞬く光の束を見下ろしながら、静かに目を細めた。
夢のような時間はあっという間に流れ、二人は観覧車をあとにした。振り返ると、コスモクロックが時刻を静かに刻んでいた。
「風の色が変わっていくわ。夏から季節が移り変わるのね」と、ウサギは夜の風に髪を揺らしながら、そっとつぶやいた。
「でもね、気づいてしまったわ。夢の中にいても、お腹が空いてしまうことに。あのブタ角煮まんは、まだ売っているのかしら?」
ウサギの頭の中で、ブタの顔が観覧車のようにゆっくりと回り始めた。