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ぐるんぱのようちえん
その夜、ウサギは真夜中にふと目を覚ました。部屋の中はしんと静まり返っていて、暗闇の中に一人きりだと感じると、孤独感が胸にじわりと滲んでくる。
「夜の帳がまだ降りているのね」
ぎゅっと目を閉じ、私は眠れると自己暗示をかけてみる。それでも、もう眠りは訪れてはくれなかった。
ウサギは冴えた目を擦りながら、ふらふらと小さな本棚へと歩み寄った。そして引き寄せられるように一冊の本を手に取った。
「ぐるんぱ」は大きな象さん。街のお店で働くものの、張り切りすぎて、作るものは何もかも大き過ぎる物ばかり。どのお店でも直ぐに追い出され、ぐるんぱはいつも独りぼっち。
ウサギはページをめくる手を止め、そっと目を伏せた。「わかるわ。何をしても空回りしてしまう、そんな時ってあるのよね」
そんなぐるんぱに、思いがけない出会いが訪れる。彼が巡り会ったのは、12人もの子どもを抱えた、とても忙しいお母さん。
「ねえ、ちょっと子どもたちと遊んでくれませんか?」と、声をかけられたぐるんぱは、元気よく頷くと、その頼みを快く引き受けたのだった。
「お店では大き過ぎたお皿やビスケットが、子どもたちの遊び場やごちそうになるなんて、運命なんて、本当に分からないわね」
「そうだわ。私だってひとりぼっちじゃなかったわ」ウサギは本を閉じると、記憶を辿るように部屋の奥に手を伸ばし、小さなオルゴールをそっと引き寄せた。
ネジを巻くたびに、ガチリ、ガチリと微かな音が響き渡り、それはまるで閉じかけた扉を夢の向こう側へ開くような、不思議なリズムを刻んでいた。
ネジから手を離すと、ガラスの中で星の王子さまがくるくると回り始め、「星に願いを」のメロディーが静かな夜に舞い降りてくる。
「王子さまからもらったこのオルゴールの音を聴くと、あの日、一緒に眺めたイルミネーションが鮮やかに蘇ってくるの」
優しく包み込むような旋律に心がほどけていき、ウサギはいつしか深い眠りの中へと誘われていった。
<ぐるんぱのようちえん>
西内ミナミ・さく/堀内誠一・え/福音館書店