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宇宙からのお客さま
その日、ウサギは図書館の閲覧席で星の本を開いたまま、じっとページの向こうを見つめていた。ふと浮かんだ想いは、小さな声となり、気づけばそっとこぼれ落ちていた。
「ほかの星って、いったい、どんな景色が広がっているのだろう…」
「ほかの星に行くのは難しいけれど、『宇宙からのお客さま』になら会いに行けるよ」 隣に座るカメの言葉は、瞬く星の光のように、静かにウサギの心に降り注いだ。
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静寂に包まれた館内には、気象観測装置が整然と並び、その装置が記録したデータも丁寧に展示されていた。さらに奥には、南極の大地に舞い降りた隕石が、秘められた宝物のようにひっそりと展示されていた。
「これが『宇宙からのお客様』なのね…ようこそ地球へ」ウサギはそっと微笑み、小さな声で語りかけた。
目の前の隕石は神秘的な輝きをまとい、特別な存在感を放っていた。興味深げに見つめるウサギの瞳には、無邪気な好奇心と静かな敬意が溶け合うように宿っていた。
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南極で発見された最大の石質隕石の一部
ブレンハム(右側)
パラサイト=石鉄隕石の一種
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南極で発見された最大の鉄隕石
ウサギはゆっくりと歩きながら隕石に視線を滑らせていたが、ふと足を止めた。
「ねえ、この石が月から来たって、どうしてわかるの?」 ウサギは首をかしげながら、不思議そうに問いかけた。
「この石は、鉄やトリウムがほとんど含まれていないんだ。だから、月の裏側から来たって思われているんだよ」カメは、静かに答えを紡ぎ出した。
「月の裏側から来てくれたのね。独りで寂しかったのかしらね…」
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「この石が火星から来たって、どうしてわかるの?」
「石に含まれるガス成分が、火星の大気と一致しているんだ」カメは説明を続けた。
「それだけじゃない。この石には、水がなければできない鉱物も含まれているんだ。つまり、火星にかつて水が存在していたことを証明する石でもあるんだよ」
「遠い火星からメッセージを運んできてくれたのね…」ウサギは引き寄せられるように、静かに石を見つめていた。
「いつか行ってみたいわ…あなたたちの生まれた場所へ」 ウサギの夢見るような言葉は、彼らにそっと投げかけられた。
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