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reason.
綺麗に磨かれた窓越しに、雲を見ていた。
カフェでコーヒーを飲みながら人を待っていた。
あの雲は
さわったら手が吸い込まれるほど
やわらかいのだろうな。
巻雲は少しひんやりと冷たいのだろう。
あちらのぽふんとした積雲は、
どうやら甘い匂いがするらしい。
コーヒーに浮かべたい。
ウィンナーコーヒーにすればよかったな。
外の風の声さえ聴こえない静かな場所。
時折カップとソーサーが重ねられる音が
するくらいだ。
頬杖をついて、
無声映画のような雲の流れを見つめる。
あの空では
本当は荒々しく大気が循環していて、
びょおびょおと唸りをあげているのだろう。
そこからほんの少しこぼれ落ちた光景を
私は見ているに過ぎない。
まだまだ知らない空はたくさんあり、
人の命に終わりがある以上
目にすることのできる奇蹟は
限られている。
生きているあいだに
どれほどの美しい空に出逢えるのか
楽しみで仕方がない。
☕︎
空には毎日美しいものが満ちていて、
同じ事の繰り返しはないのだと教えている。
美しいと思い胸を打たれるか、
頭上にある退屈なものと思うかは
ひと次第。
なにが悪いわけでもない。
悪くはないけれど
気づいてくれたら、と思うことはある。
突然の虹。
脳と感覚が混乱する天気雨。
夜の雲から発せられる雷の閃光。
太陽の周りを虹色に彩る日暈や光環。
わかりやすいものを手がかりに
日常の空の中に潜む奇蹟へと
目を向けてくれたなら。
この世は退屈ではなくて、
日々生まれ変わる新しいはじまりの時なのだと
思えるのではなかろうか。
私が《わたしの空》の写真を
222枚も載せ続けているのには
そんな理由もある。
ちょっと空でも眺めてみようか。
そうして気まぐれにでも眺めつつ、
空を好きになってほしい。
☕︎
ドアが開き、通りに植えられた金木犀の香りが
店内に流れ込んできた。
こちらを見るひと。
目が合うと
頭の上で電球が灯ったような顔をした。
コツコツと秋の足音をたてて近づいて来る。
生きているあいだに。
どれほどの空と、
どれほどの人の温かさに出逢えるのだろう。
本当に、こころ次第なのだと思う。
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