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「美しさ」とは何か。「ここじゃない世界に行きたかった」を読んで感じたこと。

美しい文章だと思った。

まるで一輪挿しにひっそりと、凜と咲く花のような佇まいを言葉の端々から感じる。

読み終えた後の清々しさったらない。


「それに俺は、美しいものを作ることで、社会に貢献したいんだ」

著者の塩谷舞さんの夫が放った言葉。

美しいものと社会貢献がリンクするなんて考えたこともなかった。

だけど、美しい何かに触れると、
それは、絵でも言葉でも花でも景色でも、心が緩むし、癒されるし、何より、自分が愛おしくなる。

それを美しいと感じられる自分でよかったと思える。

美しいとは何か。

読み進めていくと、否応なく考えさせられる。人によって定義も答えもバラバラの、決して正解のない問題に取り組むことになる。

だけど、それに対するネガティブな感情は湧いてこない。

だって、知りたいから。
わたしなりの「美しさ」の最適解に辿り着きたいから。

美しいって何?

このエッセイ本には、塩谷さんの「美しさ」に対する考え方がたくさん出てくる。

美しいってなんだろう。

カタチが整っているってこと?
きらびやかであること?
澄み切っていて、一点の曇りもないこと?

あまりにも大きく抽象的な問いに、塩谷さんはこう答えている。

「私にとっての美しさは、儚さや、安心感、静寂を伴うものだけど、仕事に子育てにと忙しい友人が、その合間に刹那的に綴る文章も美しいし、なにかの魅力に取り憑かれ、日常を放棄するほど一心不乱に取り組む友人の姿も美しい。美しさの定義は、懸命に生きる人の数だけ多様化していく」

そう、人それぞれ、なんだ。
わたしが思う美しさと、誰かが感じる美しさは違う。

どうやって見つける?


じゃあ、どうやって自分なりの美しさを見つけていったらいいんだろう?

それに対して塩谷さんは「じぶんの肌感覚」を信じることが大切だと綴っている。

わたしの肌感覚。
肌のように近くに置いておきたいもの、心惹かれるもの。
その背景に何があるのか考えてみる。

今、わたしが手元に置いて安心するものたちは

MUJIのシンプルなキッチン道具やタオル類
メッセージ性のあるフェアトレードの服
心躍るカラフルなメキシコ雑貨
自然の温かみを感じる北欧の小物


テイストはバラバラだけど、どれもわたしの日常を支えてくれるもの。
惹かれる「何か」が確かにある。

その「何か」を探ってみようかと思ったけれど、さっきまで軽々とスキップをするような気持ちで読み進めていたのに、徐々に足取りが重くなる。こういう類の、自分を深掘りする作業に最近のわたしは疲れていた。

ストーリーを求められること、意味を見出すことは、心が元気じゃないとできない。ずっと前を向いてばかりはいられない。なんとなく今は、にごしておきたい。気持ちを丸めておきたい気がする。

わたしなりの美しさの最適解を知りたいと言ったけど、それにはもう一段階、自分の中に降りていく必要があると感じた。

だから、なんとなく躊躇してしまった。

読み続けようか、どうしようか、迷って目線を左側にズラすと、この気持ちを先取りするかのように、この本の言葉たちはやさしく続いていた。

「自らの細胞が馴染むものを手繰り寄せていけば、自ずと『日本の美』と呼ばれるものにぶつかることが多い。〜中略〜『どんなジャンルが好きなの?』と問われても、明確なカテゴリーを挙げることはむずかしいのだ。でも、それはべつに大した問題じゃない。”じぶんの肌感覚”さえ信じておけば、ラベルなんてないほうがいい。むしろ言語化し、ラベルを付け、様式化した途端に、失われる感性だってあるだろう

ほっとした。

ラベル付けしなくても良いのか。
なんとなくでもいいのか。分からなくてもいいのか。
白黒を付けずに、グレーを楽しんでいいのか。

曖昧さを楽しむこと。

それが、今のわたしが感じる「美しさ」なのかもしれない。

見つめるから見つけられる

もしかすると、次第に惹かれるものの背景をもっと知りたくなるかもしれない。そうなったら見つめ直せばいい。

見つめるからこそ、見つけられる。

そうやって、自分が感じる感覚に敏感になることが、美しさを知ることになるのだろう。

自分が感じた美しさは、誰からも否定されるものじゃない。

自分の心が躍るものを、言葉を、瞬間を積み重ねていくことが、今のわたしのやり方。


ほら、今日の空も美しいよ。雪の降る曇天の合間に見える青空。

日常のほんの一瞬がこんなにも嬉しい。湯気の上がるトーストが待つテーブル。

近しい感性を持つ仲間を見つけた喜びは、小さな偏愛が繋がった瞬間。

どれも、これも、美しく、いとしい瞬間。



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