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男はあくまで嗜好品。「ツバキ文具店」の3作目、「椿ノ恋文」を読んで。
当人でさえ、本人でさえ、どうしてこんな感情なのか説明できないようなものを描くのが、小説なんじゃないか
この言葉は、とあるPodcastで語られていた言葉です。
あぁ、そうかもしれない。
車を運転しながら思い浮かべたのは、ちょうど読み進めていた小川糸作「椿ノ恋文」のとある場面でした。
「贅沢かもしれないけど、家族以外の第三者が作ってくれる、滋味溢れる優しい味がむしょうに恋しくなる瞬間があるのだ。
手のひらに残った太巻きには、ご飯粒のひとつぶひとつぶにまで、愛情というか、何か底知れない慈愛のようなものが詰まっていて、それが私の感情の芯へ静かに触れた。ちょうどよいお湯加減のお風呂に肩まで浸かっているような幸福感に満たされ、目にじわじわと涙が溢れる。」
この文章に共感・賛同するお母さんたちは、少なくないと思います。
なぜなんでしょうね。
友達の家に呼ばれて、熱々の手料理を振る舞ってもらったとき。
ファストフードやチェーン店ではなく、個人経営のビストロやうどん屋さん、カフェなどでごはんを食べたとき。
見た目は素朴でシンプルだけど、技術と心を尽くして作られたことが感じられるおやつを口に含んだとき。
おいしい
やさしい
しみる
って思うのは、なぜなんでしょう。
「家族以外の第三者が作ってくれる滋味溢れる優しい味を求めている瞬間」は、きっと誰もが味わったことがあると思うし、私は時折そういう優しい味を求めて、車を走らせることがあります。
だけどそれがなぜなのかは、本当のところはよくわかっていない気もします。
すごく精神的に疲れているから、誰かに大切にしてもらっていると感じたくて、その誰かは、自分と生活を共にするような距離の近さではないけれど、そういう人であっても、「あなたのことを大事に思っているよ」と感じさせてほしくて、真心のこもった食べ物を欲しているのかな、と今のところは思っていますが、実際はよくわかりません。
自分の感情の輪郭がはっきりしていないときは、そういう優しい味を求めて口にしたとしても
今日はカフェごはんではなく、お茶碗に盛られたごはんがついてくる定食の方だったな
と、「なんかちょっと違ったな」という気持ちになることもあります。
どうしてこんな感情なのか説明できないようなものを描くのが、小説なんじゃないか
こんなこと思っているのは自分だけなんじゃないだろうかと、ちょっとした孤独を感じたときに、小説という現実ではない世界の中であっても、「そうか、だから私は今こんな感情に陥っているんだね」という、自分の感情の一端を理解するヒントが、小説の中にはたくさん隠れているなと思うから、ついつい小説に手が伸びてしまうのかもしれません。
男はあくまで嗜好品
「バーバラ婦人は、どんな男性がタイプなんですかぁ?」
パンティーに聞かれ、
「そうねぇ、難しい質問ね。
私の場合は、毎回、好きになった男がタイプになっちゃう方だから」
バーバラ婦人が、しれっと答える。
「でもね、これだけは絶対に決めていることがあって、男はあくまで嗜好品ってこと」
「嗜好品、ですか?」
途中から話に混ざって私が尋ねると、
「チョコとか、タバコとか、お酒とかと一緒ってこと?」
QPちゃんが続ける。
「そうよ、QPちゃんはさすがね。よくわかってる。
男はね、所詮嗜むものだなぁ、って、この歳になると、つくづくそう思うのよ。
必需品にしちゃ、ダメ。
だってその人がいなくなったら、自分も生きていけなくなるでしょ。
消耗品にするのも、ルール違反ね」
「男はあくまで嗜好品」と言い切っているバーバラ婦人がめちゃくちゃかっこいい!!
(ユニークな名前の登場人物が満載ですが、その辺りの説明は省きます。ぜひツバキ文具店から読んでみてくださいね)
自分が自立していなければ、こんな風に言い切れません。
嗜好品とは「好き」であることが大前提。
好きだから、食べる、身につける、そばにおく。
選ぶのはあくまでも自分。
お互いがお互いにとって「嗜好品的な存在」になっていくのが、結婚生活14年目に突入した、私たち夫婦の在りたい姿かもなぁ、と思った一節でした。
年末年始の読書に、ツバキ文具店からもう一度、読み直していくのもいいかもしれないなぁ。
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