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鮨の真髄No.020 「伝統的な鮨種」第6回:新子

本記事は「鮨の真髄」の連載20回目です。筆者が2023年12月末に始めた、アメリカのSubstackで連載している"Spirits of Sushi"の完全日本向けバージョンです。筆者は本が大好きなので、書籍をイメージした構成でお届けします(最下部に目次を記載しています)。

本連載を読み終えたときには、必ず鮨通になっています!
ググってもSNSを開いても得られないような情報を盛り込んでいきます。

チャプター5「鮨種(タネ、ネタ)についてのマニアックすぎるガイド」では、 鮨種を「伝統的な鮨種」と「モダンな鮨種」の2つに分けてアツく語っていきます。

それでは、よろしくお願いいたします。

「伝統的な鮨種」第6回:新子

「伝統的な鮨種」の第6回では、前回紹介した小鰭の稚魚である新子(シンコ)を紹介する。


新子(シンコ)の概要

標準和名:コノシロ ※新子(シンコ)はコノシロの稚魚を示す
英語名:Gizzard Shad, Kohada
鮨種のカテゴリー:光物
主な時期:夏

前回のコハダに続いて、シンコについて解説する。コハダのシンコは7月~8月に登場するため、「夏が旬」や「今が旬」といった言葉を謳い文句にするWEBメディアやSNSのポストが散見されるが、これは厳密に言うと間違いである。シンコは幼魚であり「旬の走りの走り」なので「旬」ではない。「旬」とはその魚種の美味しさのピークであるためだ。翻って、旬の走りの魚の持ち味は旨味や香りなどの魚味ではなく、あくまでも季節の一瞬を愛でる点であろう。

過去に銀座の鮨店で「やっぱり旬のシンコは旨い!」と絶賛されている年配の方がいらっしゃった。それ自体はその人にとっての喜びなので、他人がとやかく口を出す事ではない。しかしながら、部下と思われる20代の若い方に「旬のシンコは旨いだろう?コハダとは旨さが違う!」と大声でマウントを取られたのを見て、僕も若輩者であったが恥ずかしい気持ちになってしまった。真っ当な食べ手であれば「シンコは2枚づけ、せいぜい3枚以上でなければ旨くない」と考えるものである。歴史的に考えても、シンコは1960年代まで2枚づけが定石であった(高度経済成長期以降、バブル期に起きたグルメブームで枚数が増えていったのだろうか?)。

なお、少々堅苦しい話になるが、旬の走りの素材を味という本質から外れて希少性の観点で加熱的に求めると、生態系の破壊や需給バランスの破壊に繋がってしまう。要はサステイナビリティの破壊だ。頂いている食材について、サステイナビリティが担保されているかどうかは、食べ手として認識しておくべきだ。そして、危険な食材であれば料理人の方にそっと後から伝えるべきである(例を挙げると、アナゴのレプトセファルスであるノレソレなどは出会う頻度が上がっているがサステイナビリティの面では危険だ)。いやはや、堅苦しい話で本当に恐縮だが、不思議と「食通」や「フーディー」と呼ばれている方でも漁獲問題や環境問題に精通している人は本当に少ないため、敢えて記載させて頂く次第である。個人的には、魚介の旬を知る事は自然への畏敬とサステイナビリティに繋がるので、生命あるものを頂く人間としては念頭に置く必要があると確信している。自然への感謝なくして美食はあり得ない。

とは言え、コハダの走りであるシンコに特有の魅力があるのは間違いない。先ほど書いた通り季節の一瞬を愛でる点に加えて、淡い香りや食感から成魚の姿と旬の味に思いを馳せる事が出来るためだ。6枚づけや8枚づけなどの「数の多さ」を「最良」とする行為が無粋であるのは事実である。しかし、決して6枚~8枚づけが「ダメ」だと否定しているわけではない。消費者が騒ぎ立て、したり顔でSNSに投稿する傾向に警鐘を鳴らしている次第だ。「今年は◯枚づけのシンコを食べた」と自慢している人にも会った事があるが、ナンセンスである。

結論を述べると、枚数が多いシンコについては、シンコ自体の味ではなく、出してくださった親方の心意気を味わうものである。驚くほど高値にも関わらず季節を味わわせるために手を出す親方は、江戸ッ子的な見栄と粋を感じさせてくれて、格好良いものだ。シンコを頂いた時に「コハダの方が美味しい」と言い切ってしまうのは、身も蓋もなくこれまた無粋であるとは明言しておく。近年は脂の乗りで魚の美味を評価しがちな傾向が強いものの、脂以外に香りや旨味、食感といった季節の変遷に伴う魅力が魚にはあり、シンコはまさにそれを伝えてくれる鮨種だ。

前回に続いての宣伝となり恐縮だが、コハダに魅了された方、コハダを美味しいと思う方ならば、拙著の写真集をお手に取って頂ければ僥倖である。

それでは、また次回お会いするのを楽しみにしている。本チャプターで紹介する鮨種のラインナップを知りたくなった際には、こちらの記事を参照して欲しい。

今後の目次構成

今後については、以下のとおり執筆していく予定です。

  1. スシの歴史

  2. スシの仕事と種類:江戸前寿司(握り鮓)、関西鮓などなど

  3. スシの用語: 鮨店を100%楽しむための重要用語集

  4. 鮨の生命線:シャリ、酢飯、鮨飯について

  5. 鮨種(タネ、ネタ)についてのマニアックすぎるガイド

  6. 鮨職人の技:包丁や鮨職人の道具について

  7. 日本が誇る魚文化: 築地から豊洲市場、そして各地へ

  8. 必訪の鮨レストラン: 東京から札幌、福岡、その他の地域まで

  9. 郷土寿司の世界: 日本の多様な寿司文化を探る

  10. 鮨と日本酒のペアリング

  11. 鮨の作法とテーブルマナー

  12. 家庭で美味しいスシを作るための必需品

  13. ポップカルチャーの中のスシ: マンガと映画

  14. スシの健康と持続可能性

  15. まとめ:スシの未来

なお、こちらがサブスタックの英語版記事になります。

それでは、今後ともよろしくお願いします!
励ましの「スキ」を頂けると、次のレシピを書く原動力になります!

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