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鮨の真髄No.022 「伝統的な鮨種」第8回:鮎(アユ)、鱚(キス)
本記事は「鮨の真髄」の連載20回目です。筆者が2023年12月末に始めた、アメリカのSubstackで連載している"Spirits of Sushi"の完全日本向けバージョンです。筆者は本が大好きなので、書籍をイメージした構成でお届けします(最下部に目次を記載しています)。
本連載を読み終えたときには、必ず鮨通になっています!
ググってもSNSを開いても得られないような情報を盛り込んでいきます。
チャプター5「鮨種(タネ、ネタ)についてのマニアックすぎるガイド」では、 鮨種を「伝統的な鮨種」と「モダンな鮨種」の2つに分けてアツく語っていきます。
それでは、よろしくお願いいたします。
「伝統的な鮨種」第8回:鮎(アユ)、鱚(キス)
「伝統的な鮨種」の第8回では、夏を代表する光り物2種類を紹介する。
鮎(アユ)
鱚(キス)
鮎(アユ)
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標準和名:鮎(アユ)
英語名:Ayu
鮨種のカテゴリー:光物
主な時期:夏
鮎(アユ)は淡水魚なので、海水魚の味に慣れている人にとっては好みを分ける魚かもしれない。
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しかし、実際には古代より愛されてきた高貴な魚であり、キュウリを思わせる爽やかなウリ系の香りと、肝の苦味、確かな旨味が他のあらゆる魚にはない唯一無二の魅力である。それ故にアユを強烈に愛する人も多い。私もその一人だ。
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アユを愛する理由とは、アユは生息する河川によって味が大きく異なり、また、その年の天候でも味が変わるためだろう。筆者もかつて10本以上の河川で集中的に食べ歩きを行ったことがあるが、味の違いの大きさに驚いたものだ。そして、至った結論がある。本当に美味しい鮎とは、現在大人気を博すノドグロ(アカムツ)のような脂中心の深海性の海水魚を凌駕する味わい深さを有している。複雑な味わいと土地のテロワールを感じさせてくれる魚こそが日本らしい魚だと思う。市場の価値よりも魚の個性こそが注目されるポイントだろう。
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鮨でアユを食べる時に注目すべきポイントは以下のとおりだ。
香りの活かし方
肝との向き合い方
鮎を活かすも殺すも調理法次第であり、最も重要なのは香りである。香りを失った鮎は鮎である必然性が無い。海水魚とは異なるアプローチで香りを活かす必要がある魚なので、頂く際は最初に香りを意識しよう。そこに鮎の個性と職人、料理人の技術が宿っている。
鮎を塩焼きで頂く場合には肝は必須であるが、他の料理ならびに鮨で肝を使うかどうかは鮨職人の感性に基づく。肝を抜く場合は鮎の繊細な魅力をどこまで引き出せるかが重要で、肝を用いる場合は肝の苦味や香りが鮎の繊細な魅力を壊さず調和しているかが重要だ。
また、鮨において鮎を〆るか焼くかについても作り手の好みが分かれるところだ。ただ、焼いて提供する場合には塩焼きを超えなければならない。塩焼きが鮎の至高の調理法であることは異論の余地が無いので、その下位互換となってしまっては鮨種として供する意味を失う次第だ。
鱚(キス)
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標準和名:鱚(キス)
英語名:Japanese Sillago (Kisu)
鮨種のカテゴリー:白身魚
主な時期:初夏(6月)
キスは日本において釣りで根強い人気を誇る魚だ。「陸っぱり(船やボートを使わずに陸地から釣る釣りスタイル)」で投げて釣るキス釣りは面白い。実は、筆者が初めて握った鮨種はキスであった。20代中頃にバイクで神奈川の西の方へ行き、自分で釣った20cmオーバーの大型のキスを軽く〆て鮨にしてみた。シャリの味も〆の仕事の精度も今とは雲泥の差で児戯に等しかったのは間違いないが、キス自体は美味しく、感銘を覚えたものである。キスの繊細な味わいに驚き、〆は魚の魅力を引き出す魔術的な調理法であると実感した。
ちなみに、20cm以上になるのに、大体3年かかると言われており、釣人が狙うのは30cmオーバーの「尺ギス」だ。釣りをしていた頃に出会うことは叶わなかった。
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「キス料理」と聞けば、日本人であっても多くの人が先ずは鮨ではなく天麩羅を思い浮かべる。天麩羅のキスは確かに抜群に美味しく、淡雪のごとくホロホロとほどけて香りを広げるキスは格別だ。しかし、キスを昆布で上品に〆ると酢飯との相性が抜群に高まり、鮨も中々どうして負けてはいない。ホロッと柔らかな身、軽やかな旨味、上品な香り。それらは、暑くなってきた初夏の候に清涼感を感じさせてくれる。キスは脂質が少なく上品な味わいが持ち味であり、旬の鮪のトロが脂質40%程であるのに対して、鱚はわずか1%程度。よって、通好みの味わいだと言える。
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鮨でキスを食べる時に注目すべきポイントは以下のとおりだ。
・塩〆もしくは昆布〆の精度
・身の柔らかさ
・味の濃さ
・シャリとの味覚のバランス
・薬味の使い方
・昆布の旨味や風味の浸透具合
昔ながらの仕事だとバッチリ〆て、身を引き締め、昆布の旨味を強く浸透させるが、キス本来の魚味を楽しむためには上品な〆加減の方が時代に合う。キスらしいふんわりした食感を残し、昆布の風味を浸透させすぎず、昆布の旨味も過剰に付加していないキスが最上だ。昆布味になってしまったキスはナンセンスである。あくまでもキスの味を濃く感じさせるための〆が施されているかどうか、これがキスを味わう上でのファーストステップだ。
そして、シャリがキスの味を超えていては本末転倒。お酢の酸味や塩気がキスの味わいを殺す可能性がある場合、キスを使わない方が良い。よって、食べ手としてはこのバランスを見極めるのが賞味のポイントだ。また、薬味や海老オボロを用いるケースもあるが、過剰に用いすぎるとキスの繊細な味を壊してしまう。キスに限った話ではないが、薬味を用いる場合には、味覚的、嗅覚的に必然性があるかどうかを味わうのが良い。
それでは、また次回お会いするのを楽しみにしている。本チャプターで紹介する鮨種のラインナップを知りたくなった際には、こちらの記事を参照して欲しい。
今後の目次構成
今後については、以下のとおり執筆していく予定です。
スシの歴史
スシの仕事と種類:江戸前寿司(握り鮓)、関西鮓などなど
スシの用語: 鮨店を100%楽しむための重要用語集
鮨の生命線:シャリ、酢飯、鮨飯について
鮨種(タネ、ネタ)についてのマニアックすぎるガイド
鮨職人の技:包丁や鮨職人の道具について
日本が誇る魚文化: 築地から豊洲市場、そして各地へ
必訪の鮨レストラン: 東京から札幌、福岡、その他の地域まで
郷土寿司の世界: 日本の多様な寿司文化を探る
鮨と日本酒のペアリング
鮨の作法とテーブルマナー
家庭で美味しいスシを作るための必需品
ポップカルチャーの中のスシ: マンガと映画
スシの健康と持続可能性
まとめ:スシの未来
なお、こちらがサブスタックの英語版記事になります。
それでは、今後ともよろしくお願いします!
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![すしログ(大谷悠也)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/38425651/profile_4aba3b68f061540e4f7b450db6f557ae.png?width=600&crop=1:1,smart)