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随筆・恋話

ステキブンゲイ様に掲載した記事からの転載です。

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女は失恋で髪を切るというけれど

 わたしは違うんだからね!
 みたいな展開が、最新の推しの子でありました。
 昔からよく聞く話ではありますが、そんなん本当にあんのかよと疑問に持つ方が大半だと思います。
 ありまーす!と某理系女子風に答えたい!なぜなら、私のせいで髪を切ってしまった女子がいたからである。

 これは私の高校時代の話である。
 高校入学2日目に、私は昨日見掛けなかった子が教室内にいる事を発見する。小柄で、茶色に染めた長い髪の女の子の後ろ姿だった。振り返って見えた、その顔はおそろしいほど整っていて、やっべーなめっちゃ可愛い子いるやんと思いつつ、自分の人生には全く関わってこないだろうと思っていたのだが、、

 当時の私は今よりも太っていて、およそ女性にモテるタイプとは言い難かったが、クラスのガラの悪い男子連中に絡まれてると、「かわいそう!」とか庇ってくれる女の子がいたり、裏で教師にチクってくれる女の子がいたりで、あれ?もしかしたら、意外とモテてた? とは言え、そこはフラグクラッシャーと呼ばれる私の事である。父親がヒモみたいな経緯で母親と一緒になった事もあり、そんな簡単に女の子に甘えるわけにはいかねーんだ!と孤高の一匹狼を気取っていたわけです。もし僕がタイムマシンを手に入れたら、自分自身をブン殴りに行きたい!

 で、件の超絶可愛い子(外見はまあ、ハリーポッター初代の頃のエマ・ワトソンにドラゴンボールの18号さん的なヤンキー感を加えた感じだろうか)は、高1の後半になると、僕の2つ斜め前辺りの席に座っていたのです。彼女が登校して来ると、まず席を机ごと後ろにズラすのです。この謎の行動はと思いつつ、授業になると身体を360度1回転した状態で完全に後ろを向いて、後ろの席の子と喋っているのでありました。さすがに厳しめの教師の授業では普通に前向いてるけど、それ以外はフルに後ろ向きで授業放棄!先生、ナメてますよこの子!
 で、この子(以下Yちゃんと呼びます)は、この頃になると会話するまではいかなくとも、私の視界に頻繁に登場するようになり、え、あきらかになんか自分のこと見てなくね?と思うような瞬間があったり、テストの際、私が苦手な数学で珍しく高得点を取ったときは、なんか羨望の眼差しでこちらを見ていたり、下校タイムになり、下駄箱のとこにいくと何故か待ち伏せていたり、校舎を出ると、私が歩く少し後ろを、尾行するように歩いていたり、と後から考えたらどう考えても私の事が好きに違いなかったのだが、当時の私は休憩時間になると同学年のヤンキー男子連中が群がってくるようなYちゃんが、まさか自分のことを!こんなデブちんな自分のことを!と真剣に考えていたのである、ああ、タイムマシンがあったら、この頃の自分を蹴り飛ばしてやりたい!
 とどめのイベントがバレンタインの日である。休憩時間、そわそわしながら私の周辺をウロチョロしていたYちゃんだったが、遂に意を決したのか、机に突っ伏して寝ている私に向かって近付いてくる。通常営業風の姿勢を見せつつ、(どうすんだ!どうすんだ!と)内心はテンパってた私だったが、「これあげるーー!!」とのYちゃんの声とともに何かが、スパーン!と机の中に投げ込まれる。
 後で確認してみると、不二家のペコちゃんのチョコだった。100円程度で買える安いものだったが、ハート型のパッケージにペコちゃんと、その彼氏のポコ?ちゃんの顔が彫られた棒付きの丸型チョコが入っていた。これは、これを渡すのは確かに勇気がいる。よくやったよYちゃん! と今なら素直に彼女の勇気を讃えることができる私だったが、当時はそうではなく、「え、これ、もしかしてドッキリなんじゃね? これで浮かれてYちゃんに絡みにいったら、いつも彼女の周囲にいるヤンキー男子どもが「バーカ!ドッキリだよ!」みたいな展開になるんじゃね!?」などと、真剣に悩んでいたのである。ああ、タイムマシンがあったら、私はこの馬鹿をマシンガンで乱射しに行きたい!!

 このように自意識が斜め上にかっ飛んでいた当時の私だったため、Yちゃんとは関係が発展する事もなく、高一の一年は終わり、ニ年になるとクラスが別々になってしまうのだった。時々、廊下などでバッタリ顔を合わせる事もあり、紅潮する彼女の顔を見て、心を揺り動かす事も度々だったが、高二も3学期になり、2月のスキー旅行が近付いた頃。
「あー!Yちゃんが髪切ってるー!!」
いつもYちゃんとつるんでた女の子のわざとらしい叫び声が聞こえ、声のした方を見ると長い茶髪をバッサリと切ってショートカットにしたYちゃんがいた。
 一瞬、物悲しそうに、うらめしそうな表情で私の方を見るYちゃん。

 その後、今田耕司みたいな顔をした男と付き合い始めたYちゃんだった。

「え、あてつけ?そんな昭和の漫画みたいなこと、平成の今やるの?」とか動揺していた当時の私でしたが、Yちゃんの好意を受け取って丸々一年放置かましていたおまえは本当、タイムマシンがあったら、一刀両断してやりたい!!

 おわり

 でも、まあ、こんな思い出があるからこそ、今でも僕はなんとか生きているわけで、Yちゃんには本当に感謝しているのです。別の世界線では、もしかしたら彼女とうまくやっていて、、とときどき夢想することもあります。整ってるけど、ふだんはちょっとキツめの美少女が顔を紅潮させながら、私のことを笑顔で見つめてくるのです。あの表情に嘘なんかなにもない、心からのものだった。だからこそ、その表情は甘い痛みとして、今でも私の胸の奥に刻まれているのです。

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