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気配りのできる男、ピッコロさんの精神的な成長を振り返る
ドラゴンボールの名脇役といえばそう、ピッコロさんである。
元々は悟空たちの敵として登場したが、共通の敵の存在をきっかけに手を組み、いつしか仲間になっていたキャラクターだ。
元敵役が仲間になる展開自体は当時から珍しいものではなかったが、それにしても仲間になった後のピッコロさん、あまりにも出来た人間すぎるのである。そこらの元悪役とは格が違ういい人さなのだ。
今回はピッコロさんの気配り出来過ぎシーンを中心に活躍を振り返り、同時に彼の内面に抱えた苦悩と成長も振り返ってみたい。
天下一武道会編のピッコロさん
初登場は初代大魔王ピッコロが死の間際に生んだ卵から孵ったシーンである。
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この時は悟飯が生まれる4年前にあたるため、年齢は悟飯と4歳しか違わない。初代ピッコロの記憶を受け継いでいるので精神年齢は差があるが、実年齢はお兄さん程度の差なのだ。
続いて天下一武道会本戦1回戦、対クリリンのシーン。
戦う前はザコと侮り、罵倒しているが、
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クリリンが実力者とわかった途端にこの態度。
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きちんと詫びを入れられるいいヤツだ。
そしてもうしっかり名前を覚えている。
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戦った後はクリリンのことを認め、「たやすくは勝てない」と自分を戒める。
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この時点で既に考え方は「征服者」ではなく、「武道家」のそれだろう。
その後の悟空との戦いでも、結果論ではあるものの、最後まで一般人を傷つけることはなかった。
父親とは異なり、ピッコロさん本人は誰も殺しておらず、そこらの善人顔をした元悪役とは背負った業が違うのである。
サイヤ人編のピッコロさん
次の話、ラディッツ襲来は5年後だ。
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平和ということはつまり、5年間一度も破壊行動を起こさなかったということになる。もうこの時点で世界征服する気はゼロだろう。
ラディッツを倒し、悟飯との修行前のシーン。
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「このオレのように」。中々意味深だ。
神様の悪の心の化身として分離した大魔王。その分身として生まれ、悪に染まることを宿命付けられたピッコロ。
しかし、その生き方を望んでいたわけではないことがここで示唆される。
戦いでは悟飯を襲ったサイバイマンを一瞬で片付ける。
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なにげにピッコロが殺生をするのはこの場面のみ。クリリンですら人を殺したことはある(※)のだが、ピッコロさんはメインキャラではただ一人、人間を殺していないのである。
(※池に叩き落としたので明確に死んだかは不明)
そして、ナッパから悟飯をかばったシーン。
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あれだけ悟飯を戦力として期待し、臆病であることを諌めていたピッコロが、死に際にかけた言葉は「にげろ」だった。
戦え、ではない、逃げろ。
ピッコロにとって悟飯は、自分の全てを犠牲にしてでも、ただ生きていてくれることだけを願うほどの存在になっていた。
人がその感情を抱く相手、それは我が子に他ならない。この時、ピッコロは本当の意味で悟飯の「父親」になっていたのだろう。
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「まともにしゃべってくれたのはお前だけだった」
悪の化身として生まれ、人々から避けられ、疎まれるのが寂しかった、それを涙ながらに吐露するピッコロ。
ピッコロは父親になることで愛情を知り、自らの弱さを吐露できる強さを得た。このことは後に悟空と対比されることになる。
ナメック星編のピッコロさん
ポルンガを呼び出した際に悟飯と会話をするシーン。
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「生まれ故郷で仲間を殺したフリーザと戦いたい」
これまで自らの悪としての出自、アイデンティティに迷いを感じていたピッコロだが、ここで吹っ切れた。
自分にも故郷や仲間を大切に思う心がある。悪の化身ではない、皆と同じ心を持つ人間なのだ。
そのことを自分自身で受け入れることができた瞬間だろう。
そしてここからピッコロさんは急速に「気配りの人」に変貌していく。
悟飯たちと合流し、戦闘の前の一言。
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デンデに避難を促す。ネイルと同化した影響もあるのだろうが、戦いの場面でも子供を気遣える冷静さだ。周りが見えている。
エネルギー波をフリーザが跳ね返し、悟飯に直撃しそうになるシーンでは、
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ボロボロの体でエネルギー弾を飛ばし、軌道を変えて悟飯を救う。悟飯を助けるのはもう3度目だ。
そして悟飯に優しい言葉をかけるピッコロ。
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「強くなったな」「オレはうれしいぜ」。このような言葉を素直にかけられるまでに成長した。悟飯も成長したが、それを見守る保護者ピッコロもまた成長しているのである。
最終形態フリーザと対峙した際の一言。
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悔しさを滲ませながら力の差を認め、謝罪する。
勝てないことではなく、助けられないことを謝罪するのがピッコロさんらしい。
悟空が元気玉を作っているシーン。
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悟空に加勢するために気をもらい受けるが、「自分たちのために残しておけ」とリスクヘッジをし、さらには「ぜったいに来るんじゃない」と念押しする。やはり周りが見えている。
それでも彼らが加勢に入った場面ではこの表情。
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来るなと言っておきながらも実に嬉しそうである。
元気玉の後、体力の付きた悟空を救い出したものピッコロさんだ。
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瀬戸際の場面でも悟空を助けに行ける冷静さ。
そしてフリーザを倒したと思われた場面では、優しい表情で悟飯の頭を撫でている。
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この場面にセリフの描写は無いが、よく頑張ったな、強くなったな、とねぎらいの声をかけていたことだろう。
すべてが終わり、地球に帰還した後のこの場面。
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デンデに優しく微笑むピッコロ。
フリーザ編のピッコロさんは表情が良い。自分自身のあり方が定まって、他者を思う気持ちを素直に表せるようになった。人間的な深みが出てきている。
人造人間編のピッコロさん
フリーザ襲来時、先に気配を消していたことをベジータに称賛されるピッコロ。
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劇中でベジータが人を褒めるのはここくらいである。このときはまだ「あのナメック星人」呼びだが、この後からピッコロを名前で呼ぶようになる。
3年の修行を経て、出発のシーン。
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チチにとってピッコロは悟飯をさらった憎い相手だったはずだが、「ピッコロさも気いつけてな!」と言われるほどに馴染んでいる。
きっとチチの家事を手伝ったり、悟飯の勉強を見たりもしたのかもしれない。
人造人間19号、20号との戦い。
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悟空を助けるためなら負け芝居もできるピッコロ。ベジータなら死んでもやらないだろう。
倒れた悟空を蹴り飛ばすベジータと、それを受け止めるピッコロ。
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さりげないシーンだが、ベジータはピッコロを狙って蹴ったようにも見える。ピッコロへの信頼が伺える。
心臓病を発症した悟空を運ぶヤムチャへこのセリフ。
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この状況で戦力外のヤムチャを誰が気遣えるだろうか。ピッコロ以外ならそこまで頭が回らなかっただろう。さすがの気配りの男である。格が違う。
19号、20号がトランクスの知る人造人間ではなかったことがわかったシーン。
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さりげない一言だが、エネルギーを吸うかどうかは今後の戦い方に関わる大事な情報である。必要事項を漏らさず確認できるスキルは現代社会でも活躍できるだろう。
18号に敗北したベジータの心情を慮るピッコロ。
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同じ元悪役として通じるものがあるからか、ピッコロはベジータの心情を代弁するシーンが多い。ベジータのことを最も理解しているのもピッコロなのだ。
融合するために神様と対峙するピッコロ。
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普段は合理的な発言をするピッコロだが、神様にはどうにも憎まれ口を叩いてしまう。
このあたりの関係は妙にリアルである。ナメック星人も親(の分身)の前では素直じゃないのだ。
そして融合を果たした後の場面。
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ミスターポポへにこやかに挨拶をして戦いに赴く。
さりげないシーンだが、神様の記憶を受け継ぎ、さらに違う次元へ成長したことがシンプルに感じられる名シーンだ。
そしてもう一つの名場面、セルゲーム。
悟飯を戦わせようとする悟空の方針に意義を唱えるピッコロ。
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3年も一緒に修行しており、悟飯の実力はよく知っていたはずである。超サイヤ人になったとはいえ、セルと戦えるレベルではないというピッコロの見立ては妥当だろう。(実際は異なっていたが)
そして神妙な表情で今まで隠していた事実を告白する悟空。
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悟空は悟飯の怒りに任せる以外の策を持っていなかった。
ピッコロは悟空を問い詰め、悟飯の気持ちを代弁する。
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浮世離れした悟空は、良い意味でも悪い意味でも物事を大局的な物差しで測る人物である。悟飯への愛情はあったが、心情に歩み寄る発想は持ち合わせておらず、悟飯の気持ちを想像できなかった。
唖然とする悟空。
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「悟飯の怒りに頼るしかない」、それを本人にすら伝えずに抱え込んでしまっのは、ひとえに悟空の無自覚な弱さによるものだろう。
悟空はセルに勝てないという弱みを誰にも打ち明けることは無かった。悟飯に寄り添い、弱さを吐露することで成長したピッコロとは対照的な行動である。
そして悟空は無自覚に、息子の命よりも「戦い(試合)を楽しむ」という自身の価値観を優先していたのだ。
かつて悟飯の親となり、自らの全てを捨ててでも悟飯が生きることを願ったピッコロは、本当の意味で親になりきれていなかった悟空に対し、憤りを感じたに違いない。
そしてピッコロに諭されることで、悟空は親の在り方と自らの過ちを自覚し、初めて「親」として責任を取ることになる。
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この行動は以前のピッコロと同じである。戦いを望まぬ悟飯を戦力として鍛え上げ、戦場に送り出し、そして自らを犠牲にして責任を取った。奇しくもピッコロがかつて親として行ったことを悟空がなぞる形になった。
長年の盟友、悟空の死に肩を落とすピッコロ。
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親友のクリリンと同じくらいショックを受けている。ピッコロもまた、悟空の親友なのだ。
セルとの決着後、ベジータに声をかけるピッコロ。
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本気で手を貸す必要があるとは思っていなかったはずで、やはりプライドを砕かれたベジータが気になったのだろう。
ピッコロはフリーザ戦で涙したベジータの心の弱さも知っていることだし、特に気になったのかもしれない。
ピッコロとベジータの信頼関係は意外と深い。ベジータはピッコロに一目置いており、ピッコロはベジータをいつも気にかけている。ピッコロはベジータの唯一の友人と言える存在なのかもしれない。
18号が意識を取り戻したシーン。
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なにげにファインプレーである。この一言がなければクリリンに好意を持つことがあったかどうか。
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わからなくっていいのよ。だって雌雄同体だから。
魔人ブウ編のピッコロさん
悟飯の変装を守るため、カメラを破壊するピッコロさん。
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悟飯のことになると過保護になるピッコロ。
しかし、(ごまかすためとはいえ)悟飯は恩を仇で返す。
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親の心子知らずである。ピッコロは非常に耳が良い。たぶん聞こえていたはずだ。あとでちゃんと謝っとくように。(ちなみにアニメだと耳をピクピクさせるカットが入る)
ブウとの戦いの際、ベジータからトランクスたちを託されるピッコロ。
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ベジータの心情を代弁する。
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ベジータは信頼するピッコロに我が子を託し、ピッコロはベジータの決意を理解する。二人はけして馴れ合うことはないが、お互いを理解し、尊重しあっていることがわかるシーンだ。
ビーデルとサタンについて会話をするシーン。
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ピッコロはこれまでサタンに対しては、「ちっ・・生きていたか」など終始辛辣だったのだが、ここでサタンの働きを認め、自分たちにはできないことを成し遂げた「誇り高い世界チャンピオン」と最大級の賛辞を送っている。
動機はどうであれと前置きした上で、結果論だと切り捨てることなくしっかり評価するあたり、論理的で柔軟なピッコロさんの良さが出ている。
ブウとの戦いでは、
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一瞬、本来の鳥山マンガに戻ったかのようなギャグ展開をそつなくこなすピッコロさん。「むむむむ・・・凄いがどこかくだらないぞ」。
戦いが終わった後のラストシーン。
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ミスター・ポポに抱きつくデンデと、それを優しく見守るピッコロさん。
孤独な悪の化身として始まったピッコロは、物語を通して自分と向き合い、自らの在り方を定め、仲間を、そして大切な家族を見つけることができたのである。
終わりに
いかがだっただろうか。気配りの男、ピッコロさんの人格者っぷりが伝わっていれば幸いである。
ピッコロはネイルや神様と融合したことで性格が変わったと思われがちだが、実はそうではなく、懐の深さは元からだ。
劇中、融合は力を引き出すきっかけという説明がされているが、精神的な面でもピッコロの成長を引き出すきっかけになっていると言えるだろう。
ドラゴンボールは純粋な力で相手を上回っていく物語だが、キャラクターの心の動きもよく見ると細やかに描かれている。多くの説明はなくとも、精神的な成長に合わせて態度や表情が変わる様は丁寧に表現されており、キャラクターの「心の動き」を中心に物語を追ってみると、また違った発見があるかもしれない。