「獣欲」
ぼんやりとした意識の中、目が覚めた。昨晩のアルコールのせいか、頭が少し痛い。隣には小さく寝息を立てる見知らぬ女性。またやってしまった。ふと携帯を見ると友人からの連絡が多く寄せられていた。持ち帰った女の子とはどうだったとかそんな内容だ。
いつもと同じだ。きっと酔ったうちにこのマンションに連れ帰って、やることやったって感じだろう。ため息をついて、僕は再び眠りについた。
部屋の中で叫び声が響いた。凄まじい剣幕で女の子が詰め寄ってきたのだ。
「えっ? 何? 遊び? 遊びだったの? ねえ? ねえ!」
「待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て!」
泥酔状態で身を重ねた女の子に包丁で脅されているのだ。僕は落ち着くように宥める。とんでもないババを引いてしまったと心の底から思った。
「これみてそんなこと言える!?」
女の子が俺の連絡先を指でスクロールしながら、声を荒げる。そこに載っているのは親、友達。そして無数の女の子の連絡先。
「ふざけんな! ふざけんなよ! この中の一つに入れようってか!? ふざけるな!」
女の子が包丁を持って、突撃してきた。僕は紙一重で交わして、強く握っている包丁を振い落とした。そして、暴れる女の子を玄関の外に放り出した。
「ふざけんな! おい! ふざけるなよ! 都合の良い言葉言いやがって! 嘘つき! 嘘つき!」
鉄の扉の向こうから強い衝撃と共に怒号が聞こえる。ご近所の目もある。頼むから静かになってくれ。僕は布団を頭から被って、イヤホンを耳に付けて再度、目を瞑った。
数時間後、目を覚ました。嵐のような暴力と暴言は無くなって、息を殺しながら、廊下を渡って恐る恐るドアスコープを除くとそこに彼女はいなかった。胸を撫で下ろして、俺は恐る恐るドアを開けた。誰もいなかった。しかし、足元を見ると小さな血痕が三つ程染みついていた。若干、粘着質があることが伺えた為、さほど時間はたっていないだろう。
でもよかった。これで危機は去った。僕は胸を撫で下ろして、扉を閉めた。洗濯物を取り出そうとベランダのカーテンを開けた。
窓の外に血だらけの女の子が立っていた。その手には包丁が握られており、その目はしっかりと僕を捉えていた。