流行の坩堝と化したサブスクリクションを開いて、流行りのドラマを見ていた。 流行というものもあってか、内容はかなり面白い。 少し前まではこんなことをする人間ではなかった。流行に流される人間は自分の好きなものがない奴らだと思っていた。 でも自分の中で年々,思考が凝り固まっていく事に危機感を覚えて、触れてみる事にしたのだ。 ドラマを見終えた後,リラックスがてらコーヒーを注いだ。 無論今でも、流行を追うばかりの人間の浅さには好きになれないが、流行るものには必ず
電車の窓から指す陽の光に心地よさを感じながら、席に着いていた。出勤というものはどうしてこうも億劫なのだろう。 不意に目の前を見ると広告が目に入った。 若い俳優が美味そうに酒を飲んでいる写真だ。 見るからに美味しそうだ。数日前に二日酔いで痛い目を見たにも関わらず、今は飲みたくて仕方がない。 自分という人間の愚かさに笑いが出てきた。沸々と湧き上がる欲望を抑えながら、最寄りの駅で降りた。 今日も無事に仕事を終えた。やはり仕事前に飲むもんじゃないな。
休日の昼。一人でテレビを見ていた。画面では一人の俳優が授賞式の舞台でトロフィーを受け取っていた。周囲からは賞賛の言葉と拍手が絶え間なく続いている。 ふと思った。最近、いつ拍手をしたか。拍手なんてここ最近しただろうか? 思えば拍手をする機会なんてここ最近,なかった気がする。 思い切って拍手してみた。 妻から白い目で見られた。
「早過ぎないか?」 目の前の光景を見て,僕は思わず呟いた。十月の終わりだというのに既に最寄りの駅ではクリスマスツリーが建てられていた。 気が早過ぎる。世間の気が早過ぎる。なんでこんなに早いんだ。 きっと今年も多くのカップルが我が物で街を歩くのだ。そして,僕は一人。 なんでこんなに早く虚しい気持ちにならないといけないんだ。 それでもどうしようもなく、ツリーは綺麗だ。 「彼女作ろう」 僕はマッチングアプリをダウンロードした。
多くの社員に見送られながら、私は何十年も勤めていた会社を去った。 今日、社会人としての日々が終わったのだ。 明日から新しい毎日が始まる。終わる事は新しい何かが始まると言う事。 だけどどうにも終わりは怖くて仕方ない。虚しい。虚無がぽっかりと口を開けて,僕を待っているような気がする。 怖い。恐ろしい。しばらくすると家に着いた。扉を開けると妻が出迎えてくれた。 「お疲れ様」 「ああ」 妻が穏やかに笑った。胸に空いた虚無感が埋まっていった。彼女には本当に苦労をか
汚れひとつない一室が今,目の前にある。今日から僕はここで暮らすのだ。 荷解きの為にダンボールを開けていく。埃が舞った。目が痒い。くしゃみが止まらない。 最悪だ。すぐさま,窓を開けた。晴れ渡る空が僕を迎えてくれた。 誇りが窓の外に流れていく。埃が消えていくごとに以前の家での名残も消えていく。 僕は今日,ここで生きていくのだ。 くしゃみが止まらない。
無数の拍手と脚光を浴びていた。選挙に受かった。最悪だ。こんなつもりじゃなかった。 だけど選挙活動をしないとただ税金で飯を食うだけのブタとしか思われなくなる。そうなればこの生活も終わる。 そもそもどいつもこいつも政治家に活躍を求めすぎなんだ。働き蟻の法則を知らんのか。どんな大企業でも有名進学校でも怠け者は二割は出るんだよ。裏金はその怠け者達の温床だ。ただ間違っている事には変わりないのでマスコミはその怠け者を晒しあげて、民衆はそれを叩く。 そして、政治への不信感が生ま
教室の中の空気が少し,華やかになっていた。目の前では先生がクラスの不良を誉めていた。 理由は不良が駅で困っている老人を助けたからだ。どんな悪人や非道徳的な人間も社会に貢献する時がある。その一部分を見た時、人はこういうのだ。ああ、この人本当はいい人なんだって。違う。それも一面なのだ。ただ、その効果は絶大だ。 「お前も普段から真面目だったらな」 「冗談言わねぇでくれよ」 不良も少し照れくさそうだった。普段,遅刻や授業を抜け出したりしているくせにだ。 しかもそん
とあるwebサイトの前、僕は激怒した。入力を拒否されたからだ。 どうやら文字を半角で打たないといけないそうだ。半角ってなんだ? 全角ってなんだ? このクソみたいな違いを作ったのは誰だ? そもそも文字を打ち込むのに二つに分ける必要があるのか? よくわからん。 まだ多言語ならわかる。ローマ字、ハングル、アラビア文字。だけどこれに関しては本当に分からん。 半角文字にしてください。全角文字にしてください。意味がわからん。なんで情報を打ち込むだけではダメなのか? 説明
公園の中、ため息をつきながら、コーヒーを飲んでいた。気になる女の子とデートに行ったが微妙な距離感になってしまった。 「まぜてー」 小さな女の子の声が聞こえた。砂場の方からだ。女の子の目の前にはスコップを持った男の子が一人いる。 「いいよー」 男の子は少女を見た後、にこやかに答えた。そこにはおそらく僕のような不純な気持ちはない。ただ、年の近い子と一緒に遊びたい。 これだけだ。僕も子供の頃はよくああやって知らない子供と遊んだ。砂場で遊んでいた頃はもっと素直で人との距離
ベランダから外を見ながら、タバコに火を付けた。一品また一本とタバコが消えていく。 タバコの煙を眺めながら、喫煙の元であろうストレスを思い出した。 仕事。人間関係。それらが重なるたびにタバコの本数が増える。 ああ、増える。止まらない。学生時代はタバコなんか吸わないと思っていたが、今はこれなしではダメになってしまった。 なくても良かったものが必要なものとして脳に刻み込まれる。辞めるタイミングはいくつもあったはずだ。ただ、それでも僕は喫煙の道を選んだ。 いつに
夜中。というよりかはもはや朝に近い時間。僕はパソコンに向き合っていた。今日の昼が締め切りの仕事に追われていたのだ。 期日というものが迫った瞬間、人は馬車馬のように動き始める。 まるで死神に背中を狙われているような感覚だ。 普段からその力を使えれば良いがそうもいかない。人は怠惰だ。いや、社会が悪い。 死神に狙われること数時間、僕は仕事を終えて、電気が切れたように眠りについた。 仕事に遅刻した。
電車の中、目の前の光景に僕は驚愕していた。終電なのに電車の席に座れないのだ。地元なら、電車はガラ空き。席も選び放題だった。東京は違う。どこも人が多い。どこもかしこも人がいる。流石は日本の首都だ。 それも山手線などの多くの人が往来しない駅でだ。もちろん今だけの可能性はある。それでも人が多い。 驚きつつも窓の外に目を向けた。聳え立つビルとその他の建物。 これから僕はここで暮らしていくのだ。すると次の駅でさらに人が乗って来た。あまりの数に思わず、声が漏れる。人肉プレス
照りつける太陽の下。僕は別の存在になっていた。多くの人で賑わうテーマパークの中、多くの入場客が僕に駆け寄ってくる。 気分は悪くない。しかし、一つ難点がある。熱い。絶望的に熱い。 まずい。視界が揺らいでいく。頭も痛い。やがて、目の前が真っ暗になった。 気がつくと僕は待機室にいた。どうやら倒れてしまったようだ。その後、偉い人に心配と同時に叱られてしまった。もっとこまめに休憩をしろと言われた。 待機室の外に出ると別の人が僕の着ていたマスコットを着ていた。その周りに
「いらっしゃいませー」 また言った。今日で何回目だろう。 「ご注文決まりましたら、ベルを押してください」 これもだ。何回目だろう。 幾度と繰り返されるハイパーテンプレート。 仕事に慣れると楽だけど、脳みそがやられそうだ。 脳死。脳死になるのだ。なんと恐ろしい。まずい。自我が消える。 AIと変わらない。消える。ガシャンガシャン。ウィーン。 ぼんやりと機械化していく自分を感じていると遠くの席が割れる音が聞こえた。 数ヶ月ぶりのイレギュラー。突然の事態
休日の夜。僕は東京の街を歩いていた。上京してからはや数年。あれほど驚いていたスカイツリーも今ではすっかり日常の一部だ。 きっとこれからもそんな事が続いていくのだ。少し虚無感に浸りそうになったので、手に持ったビールを開けた。 ビールが美味い。この味も上京して、社会人になり覚えた。子供の頃、あれほど苦く感じたこの味も今ではすっかり舌に馴染んだ。 虚無感は消えないけど。