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御相伴衆~Escorts 第二章 第135話 新天地ランサムへ6~再会、そして帰還に向けて②

 月城と美亜凛ミアリンに、席を外してもらい、久々に、耀アカルと数馬は対峙する。

「会えて、良かった。耀皇子が来られるって、今朝、聞いていたんで、楽しみにしていました。思ったよりも、お元気そうで良かった。本当に。それに資格を取得したと聞いて、・・・嬉しい限りです」
「数馬も。さっき、月城さんから、伺ったのだが、頑張っているようで、お芝居も興味深く、拝見したよ。母上にも、お見せしたかった」
「ありがとうございます。ああ、そう、慈朗シロウは、どうしてるのかな・・・って、今、皇子は、こっちにいるから、判んないか・・・」
「聞いている範囲では、国の手伝いをして、頑張ってくれているそうだから・・・」
「ああ、だったら、良かった。・・・そういえば、耀皇子、眼鏡掛けたんですね。やっぱ、コンピューターって、視力下がるの?・・・でも、似合ってますよ」
「美亜凛が、見立ててくれたんだ」
「へえ、センスいいんだなあ。やっぱ、彼女は」

 慈朗の裏切りについて、耀は、数馬に話すことは、当然できなかった。
 数馬は、当然、疑うことなく、耀のその言葉を信じた。
 そして、これまでの劇団での事を、語り始めた。

「スメラギを離れて、学んだ事が、沢山あって。俺も、随分、色んな事を、学びました。『月城歌劇団ルナキャッスル』は、一流を目指していて、その中の一員として、置いてかれないように、頑張っています。語学も聞き取りだけではダメで、次回の公演地が決まって、その国の言葉が喋れない人間は、自動的に、裏方なんです。どんなに、上手くてもね。欲しい役に対して、全部、オーディションで、主演女優の艶肌ツヤキさん以外は、それによって、ツアー毎に配置が変わります。だから、胡坐あぐらを掻いてる暇はない。仲間の成長もすごくて、それに妬いたり、つまらないちょっかい、出したりする人なんていない。悦び合って、次こそは俺だ、って、それを自分の力にしているんです」

「数馬そのものじゃないか。劇団が。合ってるんだな、数馬に」
「うーん、でも、厳しいですね。ライバルが多いから。今回の役も、僅差で選ばれたんです。まあ、それは細かいことで、あれなんですけど・・・」「え?興味あるな。そういう話って、なかなか、聞けないから・・・」
「俺、今のクライスト家の、『ジェイス』さんに、実際に、会ったことがあって。ジェイスさんは、とても、その主人である王子を護っていて、いつも、第一義に考えている。そのことを演技に込めたら、評価されて」
「へえー・・・リアリティって、大事なんだな」
「うん・・・今、公演に来て、三日目なんだけど、世論というか、市井は皆、王太子の帰還を望んでいるらしいのが、伝わってきていて。芝居に対する感想にも、その辺りを交えてくる方も多いですね。・・・早く、帰還されるといいな、と・・・と思って・・・」

 数馬にとって、この事は、当然、かねてから、三の姫のことも含めて、思い続けていることだった。耀も、同様に、この滞在中、あちこちで見聞きしていた。王太子不在のランサムではあったが、人々の世論は、王太子が戻ってくることを、切に、望んでいるのを、耀は、肌で、感じていた。

―――スメラギの国民は、今、俺が、国に戻ることを、望んでくれているのだろうか?

「スメラギ本国は、正直、大変な事になっているのかもしれませんね・・・」
「・・・」
「この時期、皇子が、ランサムで学んでいるというのは、措置の一つなのかもしれないと、俺は思います。今、中にいたら、どんな目に遭うか。恐らく、心ある軍族の者が設えたんだと、・・・」
志芸乃シギノ元帥が、留学に出してくれたんだ・・・」

 数馬は、少し驚いた。
 志芸乃に呼び出されて、従わせられた、あの日の事を思い出した。

「数馬?」
「ああ、良かった。志芸乃元帥も、少しは、考えてくれるようになったんだ・・・」

 裏があるのではないか・・・?・・・今、皇子が不在という意味は・・・?この一連の国際社会の流れを見るにつけ、普段から、数馬は、心を痛めていたのだ。深読みもしがちだ。

 素国のスメラギ侵攻の中、その素国も、国内が荒れているという。世代交代劇を原因として、大きな内乱に発展しているらしい。スメラギは同時に、その混乱に巻きこまれる事になりはしないだろうか?

 その素国にいる、王族である柚葉は、どうしてるのだろうか、国を出奔したアーギュは、無事なのだろうか、そして、北の姫たちは・・・?

 そして、今日、この各国の政情不安の最中、スメラギの皇太子である、耀が公演を観に来た。
 しかし、浮かんでくるのは、国を離れている耀に、聞くこともできない質問だ。しかも、解りようがない事ばかりだ・・・、恐らく、質問するだけ、耀に、心配の種を植え付けてしまうことになる・・・。

「実は・・・」

 耀は、先日、揮埜キリヤ中佐から渡された、『ノート』を持ってきていた。数馬は、この皇帝候補だった桐藤と、一緒に過ごしていたことがある筈だ。これを見せることで、何か、突破口がないか、数馬から、何かを引き出すことはできないか、と、考えてのことだった。

「これ、・・・」
「何?ノート?え・・・?!・・・」

 耀は、数馬の顔色が、瞬く間に、変わるのが判った。

「これ、桐藤キリトの・・・?・・・どうして、耀皇子が、これを?」
「数馬は、見た事あるのか?このノートを」
「いえ、見るのは、初めてですが・・・、これは、間違えなく、桐藤の文字で」
「そう、彼のノートなんだ。彼の『皇帝になる為のノート』なんだ」
「耀皇子・・・」
「つまりは、俺は、彼から、これを、受け継いだことになる・・・」

 耀は、桐藤が生前に、このノートを、厨房係に渡し、自分が亡くなったら、この志を、次の皇帝に引き継いでほしいと言い遺し、結果的に今、心ある軍族の手から、耀の所に渡ってきた、という経緯を、数馬に、説明をした。

「桐藤・・・」

 数馬の目に、涙が浮かんできた。

「見てもいいですか?」

 耀は頷き、数馬にノートを手渡した。

 数馬は、その『桐藤のノート』を見た。
 几帳面で綺麗な文字で、スメラギの今後の課題が纏められている。
 全てが、懐かしくも悲しい。

 ・・・こんなに、スメラギのことを考えて、真面目に取り組んできていたのに・・・、桐藤は、もういないんだ・・・。

「数馬、ずっと、黙っていたんだね。俺に負担がかからないように、クーデターの時の事、昔の人のことは、一切、話題にしないで。慈朗もそうなのだろうね・・・、俺が擁立されて、志芸乃派の軍族のはかりごとで、彼は嵌められたと聞いた・・・」
「・・・やはり、そうだったのか・・・」

 数馬の推測通り、第二皇妃を支持する亥虞流イグル派は、志芸乃派に嵌められたのだ。そして、桐藤も・・・。

「彼が死んだのは、俺の所為とも言える。でも、当の俺は、これを渡されるまで、北の古宮にいる間に、皇宮で行われていた事を、一切、知らなかった。とんでもない皇子だと、我ながら、思った。こんな、何も知らない、俺のような傀儡ならば、素国は使える、と踏んだのだろう。ランサム大の一年目に、これを、ある陸軍中佐が、この話とともに、これを、俺に渡しに来たんだ」

 数馬が頁を捲ると、その間に挟まれていた、二枚の写真が現れる。

「これ・・・、皆、・・・桐藤・・・」

 数馬は、その写真を見ると、ついに、我慢しきれず、思わず、泣き出した。この様子で、数馬が、ここに写っている人達と、一方ならぬ、人間関係があり、それが、とても大切なものであったということが、見て取れた。

「これが、俺のいなかった時代の皇宮だったんだね。数馬と慈朗の知ってる・・・」
「桐藤の事は、何か、その中佐からは、聞いていますか?皇子は」
「・・・出自のことを」
「皇帝一族の遠縁ということ?」

 耀は、首を振った。

「父親は、スメラギ軍族で・・・母親は・・・ランサムの女性でした」
「それじゃあ、桐藤には・・・」
「彼自身には、皇統はなかった。まさに、第一皇女柳羅リュウラ様の皇統で、紡がれる予定だったのだと思う。第二皇妃が、引き取って、育てたのだと聞いて・・・」

 数馬は頷いて、そして、耀に尋ねた。

「じゃあ、桐藤のご両親も、クーデターで・・・?」
「いや、お二人とも、ご存命だ。それぞれの国で、生きてらっしゃる。母親は、彼が、その名前も、どんな立場で、どのような最後を遂げたかも知らないそうだ。父親は、軍族で、ずっと、皇宮で彼を見守っていて、名乗ることは許されず・・・当時、スメラギ軍族が、他国の女と通じることを禁じていたそうで、・・・子どもを、皇宮に差し出すことで、彼は生き延びたそうだ」
「軍族は、トップの者としか、接触がなかったので、それが誰かは、俺には・・・」
「父親は、その揮埜という、陸軍中佐です」
「・・・そうなのか?・・・だから、ノートを・・・」
「その実、このノートを、その本人が、まず、預けたのは、皇宮の厨房担当だったそうだ。その人間も、揮埜中佐が、俺の留学の担当になったということを、何かで知って、単に、皇太子の俺と接触があると見て、渡したのかもしれないし、真意は解らないが・・・」
「そうだったのか・・・。皇子、今、このことを、俺に知らせてきたというのは、・・・つまりは、何か、協力できれば、と思うのですが・・・」
「いや、数馬は、今の道を進んでくれ。桐藤という彼のことが、聞きたかった。本当に皇帝になるべきだったのでは、彼だと思った。このノートに、その熱が託されている。父親である、揮埜中佐は『息子ができなかった、皇帝としての無念を、共に晴らして、スメラギ皇国の消失を防ぎたい』と、俺に申し出てくれた。だから、俺は、これを手に、まずは、大学で資格を取得する。揮埜中佐は、その間、心ある軍族の者の力を集めて、待っていると言った。俺は、スメラギの者たちの為に、帰還する事を決めた・・・」
「耀皇子・・・」
「ただ、本当に、俺に、そんな事ができるのか?今までだって、・・・あまりにも、愚鈍で、自分の立場を顧みることなく、国の事など、一つも考える事もできなかった、俺に・・・」

 数馬は、思った。きっと、俺には言えない、辛い思いをされてきたのだろう。ひょっとしたら、慈朗も・・・。

 しかし、それでも、やはり、どんなに努力しても、どんなに熱望しても、果たせない立場の者には、果たせないのだ。桐藤のように。

 数馬は、かねてから、思っていたことを、耀に告げる。

「力をふるえるのは、皇子しか、おりません。他に、誰がおりますか?・・・お願いがあります。スメラギを離れた、俺が頼める義理はないかもしれないのですが・・・。俺にできなかったことを、果たしてほしい。北の姫たちを救い出して、出奔した、ランサム王太子を探し出して、・・・皇子の義妹に当たる、第三皇女の婚姻を認めてやってほしい。皇帝として立つことができるのは、今や、耀皇子、貴方しかいないのです」

 数馬は、写真の三の姫を見つめた。

 この数年間の、揮埜とのやり取りで、数馬の心持ちも、耀には解っていた。かつての「ご指南役」で、数馬が、この三の姫と恋人同士だったことも、既に知る所だったのだ。

 そして、数馬は知らない。俺の虹彩異色を・・・。でも、父親の一件で、なんとなく、伝え聴いてするかもしれないが・・・俺にも、実は、本当は、皇統がないことも、理解している・・・そうなんだろうな。

 ・・・それでも、母上の為にも、皆の為にも、俺がやるしかない・・・。

「解った。勿論、その心算でいる。皇帝の許可がなければ、ランサムに戻ったとしても、姫様方は亡命という形にしかならない。その為にも、俺が皇帝になる。その準備として、今を乗り切っていく。これで、決心がついた。・・・約束する、数馬」

 この数馬の言葉により、耀は、混乱のスメラギに帰る決意を、更に固めた。二人は、抱き合って、肩を叩き合った。

「いつか、スメラギが落ち着いたら、また、芝居を観に来てください」
「わかった。今日は、ありがとう」
「慈朗によろしく、伝えてください」


 話が終わり、耀と数馬を楽屋のドアを開けた。
 すると、耀を待っていた美亜凛が、小さく手を振った。

「お話、終わったのかしら?」
「あ、美亜凛、お待たせしました」
「耀、ちょっと」
「はい」
「数馬君に、サイン、もらってもいいかしら?」

 美亜凛は、待っている間に、色紙を探してきたらしい。

「いいかしら?数馬君」
「ああ、はい、えーと、・・・」

 数馬は、あることに気づいた。
 美亜凛と目が合った時に、それは、思い出された。

 数馬は、手早くサインをすると、美亜凛に、色紙を手渡した。

「ありがとう。大事にするわね。また、観にきますね」
「はい・・・」

 数馬は、丁寧に、美亜凛に、頭を下げた。

 皇宮で、桐藤を見ると、何となく、彼女を想い出していた。
 全然、似てないのに、と思ったら、実際は、目がそっくりだった。

 ・・・そうか、桐藤、お母さん似だったんだな・・・こんな偶然、あるんだな。彼女は、桐藤のお母さんだったんだ。

 なんか、ごめん。・・・って、俺、誰に、何を、謝ってるんだ。

「数馬?」

 数馬は、耀に耳打ちする。

「桐藤の母親って・・・」
「・・・よく気づいたね」
「いやあ、目が似てるよね」
「でも、彼女には、伝える心算はないんだ」
「その方が、いいですね」

「数馬、また、いつか、どこかで会おう」

 その言葉、柚葉も言っていた。
 ただの、一国の主の決まり文句、だったら、いいんだけど。

「次に会えるのを、楽しみにしてる・・・それまでに、できる事を、尽くすから」

 数馬は、耀を見つめ、頷いた。

 耀が、とても、成長した事、皇統に対する責任を持った事、数馬には心強く思え、先に希望を託す。

 どうか、何でもいい、それぞれが、苦境から逃れて、少しでも、良くなってほしい、と。

 慈朗、耀が帰るまで、国で、一人で、頑張ってるのだな。

 ・・・柚葉、国の矢面に立たなければならないのかもしれない。でも、君は如才ないから、周りを味方につけて、きっと大丈夫だろう。

 ・・・桐藤もきっと、もう、恨むより、心配して、今の各国を見ていると思う。それは、あの『ノート』が示している。『ノート』のことは、耀に任せればいいから。
 
 そして、北の姫達を、どうか、アーギュ王子、助けてやってくれ。戻らないということは、画策中なのだと、俺は信じている―――

 この数日後、耀は『桐藤のノート』を携え、スメラギに帰国、皇宮に戻ることになる。


~次回、忠臣は二君に仕えずへつづく


 御相伴衆~Escorts 第二章 第135話 
          新天地ランサムへ6~再開、そして帰還に向けて②

 お読み頂きまして、ありがとうございます。

 次回、本編最終章前の1話となります。

 実は、『伽世界のクライシス』が、大きな背景では迫っています。
 同時に、世界には大きな洗い流しの時がきますから、この『御相伴衆』の世界も、再生前の破壊が起こります・・・。

 これ、実は・・・、現実世界と重なっているような気もします。
 お気づきの方には、何のことか、解ると思いますが・・・。

 正しく生きようとする者たちには、厳しい経験を経なければなりませんでが、必ず、それを乗り越えたら、追い風が吹く。

 それぞれのキャラクターたちが、乗り切れることを祈りたいと思います。

 次回も、お楽しみになさってください。

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