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御相伴衆~Escorts 第二章 第118話 青天の霹靂3~「舞巫女のように」

「最後のページをご覧なさい。まだ、終わっていない」

 数馬は、更に驚愕した。頭が真っ白になった。

「意味が解りません・・・何故ですか・・・」

 巻末、最後のフォルダーに差し込まれていたのは、耀アカル皇子の写真だった。

「酷い・・・志芸乃シギノ様、俺たちならとにかく、何故、次の皇帝になられる、皇子の写真がここに・・・?」
「・・・まあ、それはおいおい、君にも意味を伝えよう・・・。最新版を、素国そこくの皆様にお配りする予定だ」

 テーブルの上に、同様のアルバムが、山積みにされている。

「!!・・・失礼します」

 数馬は、慌てて、それを手に取り、一つ一つの巻末を見た。何冊か見て、安心した。そこには、皇妃たちの写真も、耀皇子の写真もなかった。・・・慈朗の写真も。唯一、きちんと折込まれていたのは、数馬自身のものだけだった。

「ははは、心配することはない。君に、最初に見せたのは、唯一、一冊だけのレプリカ、ちょっとした洒落なのだよ。君も解るだろう?・・・皇妃とその一派が、逆の派閥の者、つまり、私達をどのように扱っていたかを・・・。死者に鞭打つわけではないが、亡くなってしまえば、痛みもないだろう・・・憂さ晴らしのようなものだ・・・可愛いものだろう?」

「これは・・・」
「まあ、その代りに、君のは綺麗に、他の娘たちと同様に、プロフィールを入れさせて貰ったよ。ほら、前回の芸を披露した、美しい写真も、ふんだんに使っている。是非、許可を頂きたいのだが・・・」

「東国の麗質・・・」

 なんだ。結局、同じことだ。晒されて、玩ばれるのに、変わらないのだ。

 でも、良かった。
 皇妃様や、姫様が、こんな形にされるより、ずっとマシだ。
 冗談でも、皇子だなんて、何を考えているんだ。
 それと、慈朗が外されている・・・、それは、少なくとも、今の慈朗にとっては良かったのだ。つまりは・・・

「脅しているわけではないのだよ。ただね、君の選択次第で、物事は、かなり、大きく変わってくるということだ。何、簡単だ。第二皇妃が、私になったと思ってくれさえすれば、以前と、全く変わらない。いや、私なら、それ以上の立場や、処遇を与えることができる。君はもう、属国の奴隷ではない。東国から来た、大切なゲストだからな」

 そういうやり方だ。
 初めに、大きな圧力をかけ、そこから引き算で、このぐらいならいいだろうと思わせる。俺の性格など、計算済みで。

 ・・・言われなくても、要求は見えていた。
 俺一人がやれば、皇子や、慈朗を護れるのならば・・・

「解ってくれるな?・・・まずは、もう少し、理解を深め合おう」

 志芸乃は、数馬に近づき、アルバムを、手元から引き取った。

ひざまずきなさい。今日から、私がお前の主人だ」

 数馬は、志芸乃の足元に膝をついた。

 柚葉が、紫統シトウの腕の中に落ちる姿を思い出した。
 所作の感じは違うが、志芸乃は、丁寧に数馬の頭を撫でた。一つに束ねた、元結を解く。

「本当に、濡烏が美しい。少し、つり上がった目が獣のようだな。桐藤キリトにも、似た所があったが・・・」

 今の慈朗には、こんなことをさせられない。俺さえ、ここを乗り切れば、きっと、活路が開かれる筈だ・・・。志芸乃は、数馬を抱き締める。

「いい子だ。素直でいることが、ここでは一番なのだ。よく解ってくれた。数馬」

 客先で、巫女舞紛いのことをさせられ、初めて、男の客にはべった時のことを思い出した。

 自らの粉飾の匂いに、遊興の臭いが絡みつく。酒や紫煙の臭い。
 普通の年嵩の男の客の雰囲気と、志芸乃は変わらなかった。

「これは芝居だ・・・」

 同じ人の温みでも、心の入らないものは、こんなに無意味なのだと・・・
 
 柚葉が意に染まない女性との床を耐え難くしていたのは、こんな感じだったのかもしれない、と、数馬は思った。

 それ以来、数馬の役割は、日々行われる宴の接待役となった。
 貴賓館のクラブで、傾向を指定され、舞を中心とした演目を披露する。
 少なくとも、芝居と芸事の場に身を置くことができる、それを励みにしようと思った。

 とことん、客を惹きつける。
 客の視線は、ねめつき、絡むように、自らに注がれる。
 視姦に近い、それに応える媚態を尽くす。

―――「舞台の上で、客をその気にさせて、なんぼの芸だ」

 これが、俺自身を援けるんだ。親爺や兄者から、言われたこと。することは変わらない。

 宴の後は、指名を受け、客の部屋に行く。
 数馬は、身を切った。複数の大人の手の中に抱かれる。
 不思議と、他の御相伴衆の同胞のことを思い出すことが多かった。

 何故か、桐藤や、柚葉、慈朗の分身が、自分の中にいるような感じがした。役者の経験からか、客に合わせて、彼らのように演じ分けている、自分に気づく。

 数馬は、写真の件から、志芸乃は、耀皇子をも、手中に収めようとしているに違いない、と思った。

 皇子自身は、自分が、志芸乃に狙われていることすら、知らずにいる筈だ。慈朗の身体の不調の意味も・・・。

 耀皇子と、慈朗は、数馬が背負った、この事に拠って守られていたのだ。
 第二皇妃の所業と言われていた、このような事が、二度と無いようにと、皇后陛下より宣されていたにも関わらず、志芸乃は、その命を聞かずに、素国の意のままになっていった。


🏥🎨🏹

「慈朗、どうだ?体調は、戻ってきた?」
「うん、やっと、点滴じゃなくて、物が食べられるようになった。まだ、美味しくないけど。味が、あんまり、わからないんだ」
「・・・そうか、お前、ますます、痩せたな」
「・・・ごめん、数馬、こんな事になっちゃって」

 数馬は、入院中の慈朗を訪ねていた。慈朗は、ベッドで身体を起こしていられる程に、回復していた。

「皇子は元気?学校は引き上げたんだってね」
「元気だよ。・・・でも、まあ、無理だったんだ。これで、良かったんだ」
「僕のされた事が、皇子に・・・と思ったら、今でも、ぞっとするんだ。まだ、自分が虐められたり、玩ばれたりするのは、もう、馴れっこだから・・・僕で、良かったんだ・・・」
「ごめん、護ってやれなかった・・・本当に、ごめん、慈朗・・・」
「いいんだよ。その分、数馬が、皇子を護ってくれたから、これで、済んだんだから」
「・・・本当に、ごめん。なんか、色んな人に悪い気がして。お前を守れなくて・・・、皇妃様とか、柚葉にも頭を下げたい、本当に申し訳ないって・・・」
「数馬・・・」

 数馬の涙目の顔、慈朗は、久しぶりに見た。皇宮に来た時、身内を殺されてしまったことが解った時以来だった。三の姫が、アーギュ王子の元に行った時にすら、見せなかった表情だ。

 いつも、前を向いて、胸を張っている数馬が・・・。きっと、今も、僕には言えないけど、皇子を護る為に、大変な思いをしてるのかも・・・?

 俯いた数馬の、上衣の袷の間に、慈朗は、間違えなく、それを見止めた。

「数馬・・・?・・・まさか、また、あれ」
「何?」
「・・・素国高官、とか、お客、とってるの?」
「え?なんで?」
「・・・見えてる。下向くと、服の間から、痣だらけだよ・・・」
「・・・あー、参ったなあ。大したことない、こんなの、今までと、変わらないだろ?」
「上から、条件を出されたんだね?役目に徹することで、皇子や僕をかばって?」
「んまあ・・・、仕方ない。これで、済むんだから」
「数馬・・・ごめん、本来なら、それは、僕の仕事だよ。きっとそうだ。数馬は、耀皇子の側を離れないで護って、僕が、こっちの筈だったんだ。でも・・・」
「いいんだ。大丈夫だから。今は、身体を治すことに専念してほしい。それと・・・」
「・・・うん?」
「前にも言ったけど、皇后陛下と、耀皇子には、この現実は伏せられている。でも、思うに、気づく時がくる。時間の問題だと思う。でも、慈朗の所に、皇子が来ても、心配させる事は、絶対、言わないでほしい。慈朗は身体を壊して、入院中、そのままで通してくれ」
「うん、それは、大丈夫だから、心配しないで・・・」
「慈朗が、元気になってきたから、俺も励まされる。本当に良かった・・・」
「・・・帰ったら、手伝いたいんだけど・・・」
「帰って来たら、耀皇子と勉強したり、絵を描いたりしてくれ。それは、俺にはできないことだから」
「・・・数馬、僕、・・・もう、できないんだ。ダメになっちゃったんだって・・・」
「・・・?!」

 慈朗は、小さく笑った。数馬は、それを見逃さなかった。

「身体そのものは、回復したんだけど、夜伽は無理になった・・・本当に、ごめん。僕の取柄なんて、寝所のことしかないのに・・・。それができないなんて」
「・・・慈朗、それって」
「薬、大量に飲んだ副作用なんだって。すぐ気持ち悪くなって、吐いたんだけど、その後は気を失って。色々、されちゃったみたいだけど、全く、解らなかったんだよね。それが、却って、幸いだったと思うよ」

 慈朗は、えへへと笑って見せた。
 数馬は、思わず、慈朗を抱き締めた。涙が止まらなくなった。

「ごめん、なんか、本当に、やっぱり、柚葉に申し訳ない・・・」
「えー、数馬が、そんなこと思うの、なんか、ちょっと、嬉しいんだけど・・・」
「柚葉がいてくれたら、・・・桐藤も・・・こんな事にならなかった、俺の力不足だ・・・」
「・・・数馬、そんな事、言わないでよ。もう、いいんだ。もう少しで戻れると思うから、そしたら、僕もできることをやるから。ずっと、耀皇子についてるから、僕が」

 今の慈朗に、志芸乃元帥の考えなど、伝えることはできない。
 皇子をも、狙い、志芸乃が、その手中に収めようとしている事など・・・。

「きっと、今、数馬は、精一杯なんでしょう?いくら、数馬でも、無理してるの、判るから。早く、退院できるようにする。傍にいるぐらいしかできないけど、戻ったら、考える。協力するから、もう少し、待ってて」
「ああ、わかった。それまで、俺が、耀皇子を護るから・・・」
「うん、頼むね。さて、少し歩かないと、玄関まで、送るよ」


青天の霹靂4~「月城歌劇団①」へつづく


御相伴衆~Escorts 第二章 第118話 青天の霹靂3~「舞巫女のように」

 ますます、状況が厳しくなる、御相伴衆の二人。そして、耀皇子まで・・・?

 暗雲垂れ込める展開・・・数馬たちは、与えられた場所で、精一杯務めることで、その身を護るしかない状況に、追い込まれてしまいました。

 実は、この「伽世界」も、一時代が、末期に近づいている頃のお話です。
 間もなく、仕切り直しの時がやってきます。

 ひょっとしたら、顔晴ったら、報われることもあるかもしれない・・・。

 数馬たちの運命が、試される時かもしれません。

 今回も、お読み頂きまして、ありがとうございます。
 次回をお楽しみになさってください。

 

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