それからのこと ~その変わり目 最終回
今までのは、そうじゃなかったのかな、というぐらいに、今がいい。
一つ、願いが叶ったんだ、と思ったら、芋蔓式っていうのか、色々と手に入ったような気がしてるんだけど・・・。ぽっかり空いてた所が、埋まったというか。
まあ、君のことなんだけどね。
例の相崎部長の件、打ち合わせの時に、よくよく聞いてみたら、君が、数年前に、ご病気で、亡くなられたお嬢さんに、面差しや雰囲気、性格的な所も似ていて、色々と気をかけてらしたようだ。少し、個人的に入れ込んでみていたのはあったかもしれない、誤解させるようなことがあったら申し訳なかった、と、頭を下げてきた。
と、俺に下げられても、って所なんだが・・・そのことを、君に話すと、ホッとした顔になったよね。その上で、秘書としての配置換えをどうするかと、再度、打診があった。でも、君は受付をやりたいのだと、ハッキリ言ったね。俺とのことがどうの、というだけのことではなくて、この仕事が好きなのだと言った。時折、引っ込み思案な自分自身が出てしまうが、そこを抑え込んで、頑張れる場なのだと、最近は思ってる、と言う。
「衛司さんの10分の1も、人とのお喋りができないけど・・・」
あ、そこ・・・。なんて、また、嬉しくなり、脂下がりそうになるが、俺とのことが、仕事上の励みというか、刺激になって、頑張ろうとしてくれるなら、本当に嬉しいんだよな。確かに、頑張り屋なのは、よく解る。
「ならば、異動の話は、やんわり、俺から言っておこうか?」
「そんな、それは自分で・・・」
「それなら、そうした方がいいね」
嬉しそうに、頷いた。無理せず、マイペースにね。
先日のフェイマスモールでの買い物は、ランチの後、ヌフティラスという、台所用品や、鍋や、食器、カトラリーを扱ってる、北大陸系の輸入メーカーのショップに行った。君は凄く、嬉しそうで、水を得た魚の如く、憧れのヌフティラスなんだと、数々の食器類を手に取っていた。もう、俺の目には、君が手に取った鍋の中に、チキンのトマトソース煮が見えたし、木製のサラダボウルに、シーザースサラダが見えた。それでも、一通り見ると、サッと、店を出て行こうとするので、腕を掴んで、引き止めてしまった。
「何か、買わないの?俺んちの台所、すっからかんだよ」
「でも、・・・高いし、・・・家にあるし・・・」
「うち、って、君の家でしょ?」
「あ、そうか・・・でも・・・」
「ふふふ・・・そうかあ、嬉しいなあ、自分が使う想定なんだね」
「あああ・・・」
手を頬に当てて、慌ててるし。まあ、その方がいいよ。君の使い勝手の良いお鍋の方が、俺もいいんだから。
「ごめんなさい、図々しい、でも、なんか、そういう見方しか、できなかったし・・・」
「いいよ、嬉しいよ、本当に・・・もう、越してくればいいよ、そんなんだったら、あはは」
「え・・・」
「えー?冗談・・・じゃなくて、マジ、越してくる?通勤時間、半分になるよ」
確かにそうなる。岩宿なら、俺んちからの方が、遥かに近い。
「家賃も要らなくなるし、どうかな、すぐじゃなくてもいいから、考えたら?」
「・・・そんなつもりで、買い物しなかったんじゃなくて」
「そんな計算、できるわけないのは、解ってるから、・・・ね?どうかな?」
「・・・」
「嫌?」
少し、黙ってたけど、緩く、首を横に振る。
「じゃあ、いずれ、っていうことで、どうかな?」
「・・・いいのかな?」
「いいよ、いいに、決まってんじゃん」
「それって、一緒に、ってことだよね?」
「えー、そうだ、ねえ。ふふふ、なんか、そう思うとね、もうね・・・」
不思議そうな顔してる。あああ、今、思ったこと、言わない方がいいかな?あまりにも、それは、スピードすぎるか・・・。
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「そうか、おめでとう。そういうことなら、是非、お引き受けさせてくれないかな」
相崎部長が、満面の笑みで、俺の肩を叩いてくれた。
「日程の方が、ご都合は・・・?」
「何を言ってるんだ?君たちの都合だろうが、こんな大切なこと」
ノックの音がして、君が入室してきた。
「失礼します」
「ああ、卯月さん、彼の方が、先に来られてるから」
「すみません。お客様のご案内に時間がかかってしまって」
「はいはい、いいよ、座って・・・解りました。お引き受けしましょう。でも、大体の日程は考えているんだろう?」
「あ、はい・・・」
お互いに、目を合わせた。他人の前で、二人の間柄をはっきりと晒す、というか、知らせるのは、これが初めてで、戸惑うよな。こんなの。
「ゴールデンウイーク中っていうので、考えています」
「なるほど。案外、避ける人もいるみたいだけど、敢えてね。皆が海外旅行に行くわけでもないしね」
「人によりますが、もう、今から、伝えておけば、親戚が中心なので」
「そうなのか?」
「ああ、二次会というか、友人レベルでは、別日に、やってもらえるみたいな、予定なので」
「今の人は、そんな感じなんだねえ、そうか。良かった。卯月さん、貞躬君なら大丈夫だな」
「・・・はい、ありがとうございます」
「よろしくお願いします」
相崎部長は、喜んで、仲人を引き受けてくださった。二人で立ち上がり、頭を下げた。ありがたい話だった。
まずは、一緒に・・・と決めて以来、しばらく必要なものは、彼女が俺の家に運んでくれていた。台所のものや、ちょっとした着替えから始まり、結局は、少しずつ、俺の車で行き来して、必要なものの半分以上が、こっちへ来た頃から、彼女は、俺の部屋から、岩宿の会社に通うようになる。
つまりは、同棲(シミュレーション)ということかな・・・。朝から一緒に通い、彼女の会社の前で別れ、途中立ち寄り、手弁当のランチを、晴れなら外で、雨と解れば、近くで外食をする。夕方は、それぞれの退社時間があるので、バラバラが多いが、待ち合わせができた日には、一緒にスーパーに立ち寄って、夜は部屋で食事となった。無駄がなく、一緒に居られる。それが、お互いに嬉しいのだと、確認しながら。もう、互いの会社にも、自然と知れて、周知の仲とされた。
こうなると、ここから先は、結果までは、短い方がいいのは、定説で・・・。
ひと月も経つ頃には、それぞれの両親に紹介がてら、挨拶に行った。先のことを前提として、という意味で。そして、相崎部長に仲人を頼みに行ったのが、昨日だ。
「・・・私としては、もう、スピードすぎるのかも」
「そう?俺も、そんな筈なんだけど、そう感じないんだよな。多分、ここまで、すごい時間、かけてるから、だと思うんだけど・・・」
「・・・そうなの?」
「言ったでしょ。三年間かけて、タイミング見てたから、・・・まあ、間違えなかったんだ、って思ってるよ」
「あああ、そう、そうなの、本当に?」
ここまで来て、また、頬に両手当てて、赤くなる。で、また、なんで、私なんか、みたいなことを言う。君だから、と返す。これが、バカップル的リピートで。
「もうそろ、あれだよね。アパート引き上げる頃だよね」
「うん、家具は、古いものは、来週、回収業者に引き取ってもらって」
「解った。いよいよ、全部、お引越しだね。で、三か月後にはね。あっという間だよ、きっと」
「うん・・・」
どれが、プロポーズだったのか、もう、解らない、と詰られた。でも、出会ってから、毎日が楽しかったと、君は言ってくれた。これからも、色々とあるだろうけど、お互いに、力が抜けた気楽な感じで、好きな感じを共有できる二人でいられたらいいな、と思っている。
その変わり目を、俺は、ずっと狙ってた。ずっと、観察してたら、思っていた以上に、近い感性で、近い所にいたのが解った。動いたら、それが、明確になった。引き寄せられることも。君は隣で、また、泣きそうな、でも、嬉しそうな赤い顔をして、小首を傾げてる。
「良かった?これで」
「うん、・・・ありがとう、衛司さん」
「こちらこそ」
「よろしくお願いします」
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「渡会―、できた?貞躬っちとヒメのパーティのプログラム」
「はい、見て、こっちも。・・ん、蓮香、お前、ちゃんと、煙草、止められたんだな」
「あったりまえじゃんか」
「設え、こんな感じでいいだろう?」
「いいじゃん、すごい、冴えてる」
「でもなあ、追い越しちまったな」
「そだね」
「言ったの?」
「ううん、言ってない。いいよ、サプライズで、これも」
「へえ?違うだろ、さすがに、それは」
「いいよ、一緒にお祝いにしよ」
「はあ?それは、別でいいだろ・・・んで、体調は?」
「うん、今日は大丈夫、気持ち悪くない」
「でも、もう、酒もダメだからな」
「わかってるよ、渡会」
本日は貸し切りにつき、
一般のお客様はご来場できませんので、
よろしくお願い致します。
CLUB CHANDRER 本日5/3の催し PM6:00~
衛司💛日女美 WEDDING PARTY
受付にて、オンラインチケット招待状を提示して、ご入場下さい💛
「その変わり目」~完~
みとぎやの小説・完結編「それからのこと」~その変わり目 最終回
恋愛小説、王道のハッピーエンドでした。
お読み頂き、ありがとうございました。
確か、初めて1か月記念のスタートでしたね。
まもなく、2か月になります。
お越し頂き、お読み頂いた、皆様、
本当に、ありがとうございました。
また、2か月目スタートの12月8日からは、新連載を望んで、
第一話を、ひとまず投稿をする予定です。
今の所、2つの話があるのですが、最近はシンクロを信じて、直感でのチョイスを試みています。それは、皆様とコメントで、触れ合った時に感じたこととか、何か、目についたものとか、8日ギリギリで、どちらにするか、考えようと思います。
たまたまですが、両方、物書きを職業にする者が、主人公のお話です。
男か女か、どっちになるかなあ・・・?
お楽しみにして頂けたら、嬉しいです。また、よろしくお願いします。
今回のお話は、こちらのマガジンで纏め読みができます。
よろしかったら、ご一読、お勧めです。